ライト級王者アンジョスに挑むセローニ 高阪剛が語る『UFC』見どころ
UFCライト級王者ハファエル・ドス・アンジョスが初防衛戦に臨む 【(C)Photo Courtesy of UFC】
両者は2013年8月の『UFC Fight Night』大会でも対戦。そのときはドス・アンジョスが判定勝ちを収めているが、セローニはその後8連勝をあげ、タイトル戦という最高の舞台でリベンジのチャンスを得ることとなった。はたして2年4カ月ぶりの再戦は、どちらに軍配があがるのか。また、当日はジュニオール・ドス・サントスが約1年ぶりに復帰し、アリスター・オーフレイムと対戦する、注目のヘビー級マッチも組まれている。
この2試合の見どころをWOWOW『UFC−究極格闘技−』解説者、高阪剛氏に語ってもらった。
セローニのうまくて強いジャブは相手にとって厄介
ドナルド・セローニ 【(C)Photo Courtesy of UFC】
セローニは、ずっとライト級のトップ戦線にいますけど、意外にも、タイトルマッチは今回が初めてなんですよね?
――そうなんです。これまで、たどり着けそうで着けなくて。8連勝でようやくチャンスをつかんだわけですけど、セローニが2年4カ月前、最後に負けたのがドス・アンジョスでした。
だから、セローニからしたら、何がなんでも勝ちたい一戦ですよね。で、あらためて2人の最近の試合映像を見返してみたんですけど、技術的には、あたりまえながら2人ともかなり高いところでやっているな、というのがあって。そもそも「ライト級」というのは、軽量級と重量級の狭間というイメージで見ると、なんとなく試合の感じを理解できると思うんですよ。
――軽量級のスピードや細かい技術と、重量級のパワーや破壊力を併せ持つ階級だと?
そうですね。ちょっと前まで、それはウェルター級だったんですけど、いまはライト級がそうなっていて。そういった特性をどう試合中に混ぜながら、相手にプレッシャーをかけて削っていくかということを、一個の見方として捉えておくと、「だからそうなったのか」ということが分かりやすいというか。パズルのピースをはめやすくなると思うんですよね。それで、まず挑戦者のセローニというのは、身長185センチとライト級の中ではかなりの長身なんですけど、ジャブがうまくて、なおかつ強いジャブが打てるんですよ。それで相手を崩していって、脚も利くからハイキックなんかもバンバン打っていけるんです。
――ジャブでダメージを与えながら自分の距離を取って、離れたらハイキックが飛んでくると。エディ・アルバレスなんかも、なかなかセローニの懐には入っていけませんでしたね。
それで、ちょうど中間距離のところで右ストレートを打ってくる。だから、打撃に関しては、相手にとってすごく厄介なタイプだと思うんですよ。距離の設定がしにくいんですよね。脚のリーチも長いから、バックステップして距離を外したかなと思ったところにハイキックが伸びてきたりするので。気が抜けないんですよ。
――懐に入りづらいだけじゃなく、かなり遠い間合いまで打撃が飛んでくるわけですね。
それでいてフィジカルも、首相撲で頭を下げさせる力なんかが強いし、グラウンドの展開になっても、ポジションコントロールして、仰向けからの三角絞めなんかも取れる。だから、いろんな局面での攻撃が一通りできるんだけど、その中でも最初にペースをつかむのは、前手のジャブでしょうね。あれがうまい上に強いから、相手はだんだん崩れていくんですよね。
――エディ・アルバレス、マイルス・ジュリー、ジョン・マクデッシあたりは、みんなそんな感じでしたよね。
ああやって出鼻を挫かれると、試合のプラン自体が崩されちゃうんですよ。おそらく試合前に対戦相手がセローニを研究したとき、「ジャブがうまいな」とは思っても、あそこまで強いジャブだと思ってないんじゃないかと。ひょっとしたら、あれは受けてみないと、本当の威力は分からないのかもしれないですね。
――見た目以上に効いてしまう。かつてのK−1のヘビー級で、セーム・シュルトがちょこんと出すジャブが、ものすごく効いてしまうような感じ?
おそらく、そうなんでしょうね。ただ、そのジャブは必ずしもアゴにヒットさせているわけじゃなく、当たるのは目とか鼻が多いんですよ。でも、やられる側からすると、アゴに当たらなくても、かなり強いジャブを入れられているので、「これをアゴに当てられたらヤバいな」と思うから、なかなか前には出られなくなって。それによって、地団駄を踏んでしまうということが起きてるんじゃないかと思いますね。そうやってラウンドを重ねるごとに、だんだん出血が酷くなってきたり、じわじわ効いてきて脚に力が入らなくなってきたりして、反撃できぬまま終わるというのが、セローニ相手ではほとんどでしょうね。
闘い方が確立されたドス・アンジョス
ドス・アンジョスは、UFCで20試合近く(18戦)闘ってきたベテランですけど、ここに来て、だんだん試合のやり方がまとまってきたというか。以前は、攻撃がバラつき気味だったのが、勝ちに結びつく最短距離で出せるようになった。そんな自分の闘い方を実らせたのが、アンソニー・ペティスとのタイトルマッチだったんじゃないですかね。
――ついに、自分の“型”をつかんだという。
おそらくドス・アンジョスという選手は、なんでもできるタイプだと思うんですよ。もともと柔術家で寝技が強くて、テイクダウンもうまいし、打撃もサウスポーからの打ち方をしっかり心得ている。なんでもできすぎるがゆえに、どこに自分のストロングポイントを置くかっていうのを、もしかしたら、なかなか見つけづらかったのかもしれないですね。それがペティスとの試合では、点と点がすべて線でつながったというか。完全に勝つためのスタイルができあがった感じがしましたね。
――元シュートボクセのヘッドコーチ、ハファエル・コルデイロさんが主宰するキングスMMAに移籍してから、打撃中心に闘い方に変わり、それができあがった感はありますよね。
言ってしまえば、「おまえは打撃だよ」と。そこを柱にして、テイクダウンを混ぜたり、グラウンドがあってもいいんじゃないかと。そう導いてくれたんでしょうね。
――ドス・アンジョスの蹴りは、柔術家とは思えないくらい、一発一発に破壊力がありますもんね。
今までなんで、それを前面に押し出さなかったんだ、と思うくらい強いですよね。もともと、そういう強い打撃も出してはいたんですけど、ここぞというときにタックルにいったりしてたんですよ。
――いわゆる、“打撃を覚えた柔術家”の闘いをしていたと?
ところがペティスとの試合では、スタンドで常にプレッシャーをかけて、相手の打撃をカットしながら前に出て、強いローキックを軸に攻めていっていた。サウスポーで後ろ脚のローが強いということは、あれが上に飛んできたら、ミドルになるわけですよ。だから、オーソドックスの選手にとっては怖いんですよ。レバーに当たらなかったとしても、身体を開いた状態でミドルをもらってしまったら、今度はミゾオチに入ってしまいますから。ドス・アンジョスは、そういったものを軸にした闘い方が確立されたんじゃないかと思いますね。
勝負のポイントは接近戦にあり
これについては、自分なりにシミュレーションをしてみたんですけど、ドス・アンジョスって、すごく目がいいんですよね。相手の攻撃をよけるんじゃなくて、ブロッキングで相手の攻撃を受けてるんだけど、クリーンヒットさせないタイプなんですよ。距離を詰めて、ブロックをしながら、返しで自分の打撃を当てていく。だからドス・アンジョスは、セローニがジャブを伸ばしてくるのは分かっているだろうし。逆にブロッキングしながら距離を詰めてこられると、セローニからしたらヒザを出すしかなくなってくるので。ポイントとなるのは、そこかなと思いますね。
――ドス・アンジョスが、セローニのジャブをどうブロックしながら、自分の攻撃を入れていくのか。また、セローニはブロッキングで距離を詰められたときに、どう対処するのか。
ドス・アンジョスは、もしかしたらセローニのヒザ蹴りで、ヒザを上げさせておいて、前に押してバランスを崩させてからストレートを打つとか。そういった戦法も、自分の中ではイメージできたんですけど。ともかく、ドス・アンジョスは避けながら自分の攻撃を出すのではなく、ブロックからのリターンで打撃を当てるタイプなので、見た目はもしかしたらジャブをもらってるように見えるかもしれないですけど、そんなに簡単にはセローニも顔面に当てられないんじゃないですかね。
――これまでのように、ジャブでダメージを蓄積させるというのは、ドス・アンジョス相手だと簡単なことじゃないと。
そうなってくると、ドス・アンジョスからしたら、距離を詰めて、そのままテイクダウンということも考えられるし。そこから相手の体力をどんどん削っていって、セローニの手が緩んできたところに、さらに蹴りでダメージを蓄積させることができるかもしれない。
――では、結界を張っているようなセローニの懐に、ドス・アンジョスがブロッキングしながら入ることができるかどうか。
ドス・アンジョスにとっては、あそこを突っ込んでいけるかどうかですね。また最初に言ったとおり、ライト級のトップの対戦では、フィジカルの勝負ということも絡んでくると思うんですよ。近い距離で押し合いになったときに、そこでアドバンテージが取れる選手というのはやっぱり強いので。その局面において、おおざっぱな見方をすると、ドス・アンジョスって身体が強そうなんですよ(笑)。
――骨格からして、ガッチリしてますよね。
そう考えると、長いラウンドになると疲れてくるのは、セローニのほうじゃないか。そんな気がするので、セローニにとっては最初に自分のペースを握れるかどうかが、大きなポイントになるでしょうね。