首位陥落のインテル、その強さは本物か 試行錯誤の中で結果を出すマンチーニの手腕
指揮官の信頼をつかみ、スタメンに復帰した長友
もっとも他のセクションでは試行錯誤が続く。ウイングでは、ペリシッチとリャイッチにジョナタン・ビアビアニーも加えた顔ぶれを、相手のサッカーによって使い分けた。そしてまた、サイドバックにもテコ入れがなされる。開幕からしばらくは右がダビデ・サントン、左が本来CBのファン・ジェズスという顔ぶれだったが、第6節フィオレンティーナ戦での大敗やアウェーで走り負けたサンプドリア戦を境に、他の選手も起用されるようになった。
そして、その時に台頭してきたのが長友であった。出場機会の減少をポジティブに考え、練習を通じた強化期間ととらえ直してトレーニングに励んだという。「自分の長所と短所をしっかりと見つめ直して、それを徹底的に練習から120%出してやっていた」。全力で練習に取り組む姿勢はやがてマンチーニ監督の心を動かし、「試合でプレーしない時も真剣に練習を重ねていた模範的なプロフェッショナル」と信頼を得ることになったのだ。
週替わりのフォーメーションとは、このように試行錯誤という側面が強かったことは確かだ。しかしマンチーニ監督は、それを逆手に取り、チームのマネジメントにも活用している。選手を変えながらなぜ強かったのか、という秘訣はここにある。
浸透しつつある“フォア・ザ・チーム”の姿勢
もちろん選手たちにはきめ細かな戦術指導が徹底され、誰が試合に出ても守備が機能するよう、意思疎通がなされるようになっていた。インテルはそのために、プレー映像のトラッキング分析に長ける業界のスペシャリストを今季から招へいしている。そして戦術を遂行することを通して、選手たちには“フォア・ザ・チーム”の姿勢が徐々に身についていったのだ。
前線の選手もしっかりプレスをかけて、相手にボールを回させない。チームは全員が90分間ハードワークに徹する姿勢が確立しており、ローマ戦以降の連勝時には特にそれがよく表れていた。このあたりの雰囲気は、マンチーニがインテルで最後にスクデット(セリエA優勝)を取った時の2007−08シーズンにも似ている印象を受ける。当時、4−3−1−2の中盤の底としてプレーしていたデヤン・スタンコビッチは、90分間でエネルギーを費やし、試合後にへたり込むことが多かった。そしてその彼が現在チームマネジャーをしているという事実と、現在のインテルのハードワーク志向は、やはり何らかの相関を感じずにはいられない。少なくともムードという点で、インテルは強かった時代のそれに戻ろうしているのである。
もっとも、そうしてハードワーク志向でまとめてきたチームも、完成度で上回るナポリを凌駕(りょうが)することはできなかった。フォアプレスにしても相手の方がはるかに激しく、前半は特に後方からのビルドアップをさせてもらえなかった。マンチーニ監督が言っていた「相手を支配して勝つ力はない」という台詞は、こういう状態のことを言うのだろう。一方で、攻撃は意思疎通ができていた。長友の退場で数的不利となった後半にはボールをつなげるようになり、アディショナルタイムではヘディングシュートが2度バーをたたいている。こういう雰囲気をコンスタントに出せるかどうかが今後、優勝戦線に残る鍵と言えそうだ。