最先端をいくラグビーのデータ活用法 日本代表アナリストが語るW杯への準備

「ジャパン・ウェイ」を確立するために

「ジャパン・ウェイ」を確立するために、エディーHCはあらゆるスポーツの要素を取り入れていたという 【スポーツナビ】

――W杯に向けては6カ月前から準備をしたそうですが、中島さんの準備はいつから行っていたのでしょうか? 

 2012年の11月に対戦カードが決まった時から意識し始めていました。W杯初戦で対戦した南アフリカの試合に関しては、僕らがやる前の14試合分の映像とデータをすべてデータベースに仕込んでいました。

――エディーHCにはどんなデータや分析を求められるのでしょうか?

 リクエストが非常に多いです。彼は毎朝4時に起きていて、5時にはメールが2通入っている。それで私がその日の午前中にやる仕事が決まります。彼は全世界のラグビーをすべて見るので、世界中の試合映像を入手しなければならないし、気になる点があればそこのデータを取らないといけない。クリップ(映像素材)も良いクリップがあれば全部集めて次のキャンプに使ったり、選手に直接送ってこういうプレーを目指しなさいと伝えたりします。

 そして、エディーHCはスポーツが好きなので、サッカーのバルセロナのパス精度、回数などのデータも取りますし、NBAのスタッツも取りました。なでしこジャパン(サッカー女子日本代表)の映像を入手してスタッツを取ったりと、リクエストは多岐にわたります。

――他競技のデータも集めていたのですね。

 エディーHCは当初から「ジャパン・ウェイ」という日本独自のラグビーを目指すということでスタートしています。その「ジャパン・ウェイ」に共通している部分があればどんなスポーツの映像でも使いました。僕らは忍者のように動くことを目指したんです。

 エディーHCは日本のことを良く知っているので、イチローのようなしなやかな動きを目指したり、チャンスがあったら確実にそこへボールを運びなさいということを伝えるために、バレーボールのセッターの映像を使ったり、テニスの錦織圭がスペースにパッとボールを落とす映像を使ったりしました。とにかく「ジャパン・ウェイ」に共通するものがあれば、いろいろなスポーツから要素を取り入れて選手に理解させていました。

――他競技のアナリストから学んだこともあるのでしょうか?

 女子バレーボールの眞鍋政義監督のところへエディーHCと行きました。W杯前年の8月にW杯プランニングミーティングというものがありました。私たちの中で、他競技の日本代表から学べることをこの半年で学んでいこうということになり、コーチ陣で女子バレーの練習を見学させてもらって、そこからヒントを得たり、スタッフの方とは何度もお話しさせてもらいました。

進化が見込めるオフザボールの分析

倒れている人数を減らし、数的優位を保つために、中島はオフザボールの分析が重要だと語った 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

――アナリストとして、W杯で手応えを感じた瞬間はありましたか?

 やはり勝ったときですね。僕は試合後、日本チームと相手チームのひとりひとりのデータを取るので、寝ないで分析を行いますが、やはり勝った試合と負けた試合を見るのでは大きな違いがあります。チームが勝った試合を見るのが一番ですね。

――今回のW杯でデータ分析が以前より進んでいる印象はありましたか? また、日本が分析されていると感じたことは?

 おそらく同じような分析は各国やっています。ただ、データは簡単に取れるので、違いは自分たちがやってきたラグビーに対して自信が持てるか、最後まで信じられるかです。分析が優れているかとか、どのチームが勝ったとかは大きく捉えるとありますけれど、対戦していてそこを感じることはなかったです。

 ただ、(W杯2戦目の)スコットランド戦は相手の強みを出させてしまいました。そういう意味では、最後の詰めのところまで落とし込めなかったという思いはあります。スコットランドに対して注意すべきことを注意できずにやらせてしまった。やられてしまったという部分では、時間的なものではなく、誤差があったというところで悔いはあります。

――データ分析の分野は今後も進化していきそうですね。

 今までは、ボールを持っていたところを主に分析していましたが、ボールを持っていない、オフザボールの分析も徐々に進化していくと思います。

 アタックであれば、今まではコンタクトをしてボールが出て、そこでその選手の仕事は終わりでした。今はそのあとの動き方が重要で、そこもすぐに立ち上がって次のプレーに参加できれば、アタックの人数が多くなる。ラグビーは絶対に倒れるので、倒れている時間が長ければ長いほどアタックに参加できない。さらにボールをもらえる良いポジションに立てるかどうかも見ていたので、オフザボールの時にどういったアクションをするかというところを各チームが意識すると思いますし、僕らももっともっと詰めていかなければいけないと思います。いわゆるテレビに映っていないところですね。

 ラグビーは常に動いていることが求められ、倒れている人数を減らすことは日本にとって良いことです。そこの分析がどんどん進むことで、選手のパフォーマンスがどんどん上がっていくと思います。日本はそこをやっていかないといけないですし、世界もそのような方向に向かっていくと思います。

中島正太

 埼玉県立熊谷工業高校→筑波大学。5歳からラグビーを始め、大学卒業まで競技を続けた。その後、2008年にセコムラガッツのアナリストを勤める。09年キヤノンイーグルスに所属。キヤノンスポーツパーク情報分析システムを考案。11年創立以来初のジャパンラグビートップリーグに昇格。

 12年にエディー・ジョーンズHCが率いる15人制ラグビー日本代表アナリストに就任。対戦国の情報分析を担い、練習時にはドローンを用いパフォーマンス分析に活用した。チームは世界ランクで歴代最高位の9位を記録。15年ラグビーW杯では、世界ランク3位(当時)の南アフリカから逆転勝利をし“史上最大の番狂わせ”と報じられた。同年、五輪競技のラグビー男子セブンズ日本代表アナリストに就任する。

(取材・文:豊田真大/スポーツナビ)

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