W杯に向けて変化したエディージャパン 指揮官に「だまされた」4年間
少しずつ変わった戦略
南アフリカから大金星を挙げた日本代表。ジョーンズHCの下、少しずつ変化していた 【Photo by Yuka SHIGA】
それでは予選プールの戦いぶりを振り返ってみたい。「サッカーのバルセロナのようなラグビーがしたい」。就任当初、そう語っていたエディー・ジョーンズHCは、「JAPAN WAY(ジャパンウェイ)」を掲げてサントリー時代よろしく、パスとランによるアタッキングラグビーを貫いていた。ボールポゼッションを重視し、「(日本代表に)エリアマネジメントという考えはない」、「自陣からでもアタックする勇気が必要」という言葉を繰り返した。
このラグビーで世界と戦っていくと、指揮官に信じ込まされていた。もしくは用意周到にだまされていたとも思ってしまう。ただ、ワールドカップイヤーに入った今年は、その考えは少し変化が見られた。「パスとランとキックでスペースを使って、賢く攻めるのが『JAPAN WAY』だ」(ジョーンズHC)
夏合宿では繰り返していたキック
ゴールキックだけでなく、地域を取るキックでも貢献したFB五郎丸 【Photo by Yuka SHIGA】
今思えば、2012年から3年間、夏のミニキャンプだけは、キックを使い自陣から脱出する練習だけを繰り返していた。また2013年の6月、キックをうまく使い、相手を背走させることでウェールズ代表を2戦目で撃破。2014年のマオリ・オールブラックスとの連戦も1戦目は自陣から積極的にボールを展開して大敗したが、2戦目はキックをうまく使い、僅差の惜敗だった。
パスとランという日本代表の攻撃の軸を強化しつつ、ジョーンズHCは勝つために、特に南アフリカ戦では、相手のセットプレーを少なくし、ボールインプレーを増やすため、キックは蹴るが、タッチに蹴らないという現実的な方法を採った。その戦略が見事にはまった。
何よりも負けず嫌いで、テストマッチでは「どんな方法でもあれ勝つことが重要」という指揮官ならでは、である。今年の1月、日本代表初の招集日に巨人の原辰徳監督に「鬼になれ」と講演してもらったが、一番、鬼になっていたのは指揮官だったのかもしれない。そして、キックをうまく使いつつ、チャンスとあれば見事なパスとランでトライを取り切り金星につなげた。
敗れたスコットランド戦の判断ミス
スコットランド戦ではキックを使わずに攻めたが、後半に突き放された 【Photo by Yuka SHIGA】
南アフリカ戦(○34対32) キック:パス=1:3.4
スコットランド戦(●10対45) キック:パス=1:16.9
サモア戦(○26対5) キック:パス=1:5.9
アメリカ戦(○28対18) キック:パス=1:6.1
こうして見ると、特に南アフリカ戦はキックを賢く使っていたことが顕著である。またサモア戦、アメリカ戦も同様にキックの比率が高かった。この両試合は相手には身体能力が高いバックスリーがそろい、カウンターが得意であったが、セットプレー、特にラインアウトで日本が優位に立てるという予測の下、しっかりと蹴れるときはタッチに蹴り出した。
一方、スコットランド戦だけが突出してパスにこだわっていたことがよく分かる。この試合は「ファスト・アグレッシブ・スタート」を掲げ、前半最初からトライにこだわり、ポゼッションも60%、テリトリーも64%と相手より高かった。中盤、相手のバックスリーが下がっていたため、スペースがあったのは確かである。だが、南アフリカ戦から中3日だったからこそ、前半勝負ではなく後半勝負で戦ってほしかった。賭けに出た部分もあるが、指揮官は戦略、戦術を見誤ったと言わざるを得ない。後半、フィットネスが落ちた原因は、疲れももちろんあるが、この判断ミスの影響もあったかと思う。