ベンチに入ると人が変わる!? スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(1)
監督にとってはサッカーは勝負
レアル・マドリーのベニテス(右端)は評価しないが、手の平返しには大いに同情している 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
昨季は同じカテゴリーのチームを率いてカップ戦、リーグ戦、チャンピオンズカップ戦と、セビージャ市3冠を全勝で達成したが、中心選手がごっそり上のカテゴリー(インファンティル)に行き、今季は一からチームを作り直している。
ベンチに入ると人が変わる、という話に戻そう。
「臆病になる」というのはリードしている場面ではリスクを冒さない、という意味だ。この点では私はヨハン・クライフ(バルセロナの攻撃的スタイルの創始者)ではなく、ラファエル・ベニテス(守備的と批判される現レアル・マドリー監督)である。お客さんにとってサッカーはエンターテインメントだが、監督にとってはサッカーは勝負。
20日の試合は、子供たちの士気のためにも絶対に落とせないものだったから、戦術もそれなりにアレンジし、相手の1トップには常時マークを2人張り付けた。攻めているコーナーキックの場面ではDFが上がりたがり、前述のようにスペインの子供たちは大人の言うことを聞かないのだが、すごい形相で怒鳴って何とかポジションを維持させた。リードを守れば勝てるわけで、2点目を取りにいくよりも失点を防ぐ方を重視するのが理にかなっている。
もっとも、監督仲間にはリスクを省みず常にゴールを目指す勇者もいる。力が圧倒的に上なら、そういう攻撃的だったり、美しいサッカーをすべきだろう。だから、同じベニテスでもバレンシアやリバプール監督時代は評価するが、今のレアル・マドリーのベニテスは評価しない(11月21日のバルセロナ戦は攻撃的な布陣で臨んで0−4の惨敗。今度は、なぜ守備的MFカセミロを外したと、手の平を返されている。まさに、監督はつらいよ。この点は大いに同情している)。
こんな私にしたのはスペイン人だ
日本人の監督仲間に見せるとうらやましがられる人工芝の練習グラウンド 【木村浩嗣】
監督生活も10年近くになり、200試合以上も指揮していると、とがめられても平気だし、同じことをやられても腹も立たない。試合用のボールを供給するのはホームチームでアウェー側はボールを出せない。これもアウェーの洗礼というやつである。
最後には、向こうの監督が「子供のやることなんだから、クリーンにやるべきだろ!」なんて正論に訴えてきたが、“お前も俺の立場なら絶対にやるだろ”。そういえば、昨季セビージャ市王者になった後も、相手の監督から「時間稼ぎをするな」という意味の嫌味を言われた。しかし、こんな私にしたのはあなたたちスペイン人ではないか。
マリーシアを含めてサッカーである。それを重々承知しながら、都合の良い時だけあたかも自分たちがクリーンかのような嘘、ダブルスタンダードを持ち出して来るのは偽善である。私もイノセントな国、日本からやって来たばかりなら全力疾走でボールを取りにいき、なるべく早く返していたろうが、今は放ったらかしだ。
サッカーは私を変え、スペイン人のメンタリティーは私の日本的な部分を侵食しつつある。これから、そんなスペイン暮らしの日本人指導者の目から見た、葛藤と喝采をみなさんにお伝えしたいと思っています。