ロシア陸上界、ドーピング問題の背景 大スキャンダルに発展した理由は?
ドーピングが深く根ざした文化
11月4日、国際陸上競技連盟(以下、国際陸連)の前会長ラミーヌ・ディアック氏がフランス司法当局に身柄を拘束されているという速報が流れてきた。逮捕、収賄、ドーピングというキーワードが並び、不穏な空気が漂っていたが、ここまで大きなスキャンダルに発展すると予想した人は多くなかったのではないだろうか。
その後、英紙『サンデータイムズ』は、ディアック氏はロンドン五輪前にロシア選手のドーピングを隠蔽(いんぺい)する代わりに、ロシア陸連から100万ユーロ(約1億3200万円)もの大金を受け取っていたことが判明した。さらにディアック氏の息子もドーピング陽性結果の出ていた選手たちや陸連を恐喝していたというとんでもないニュースまで飛び出してきた。
WADAの報告書には、驚くべき実態が描かれていた 【写真:ロイター/アフロ】
報告書に書かれていた「ドーピングが深く根ざした文化」という言葉がぴったりあてはまる、そういう印象を受けた。
そして13日、国際陸連は臨時の理事会を開催し、理事23名の投票によってロシアの国際大会への出場資格を停止することを決定した。そのほか来年、ロシアで開催予定だった競歩のワールドカップや世界ジュニア選手権の開催権利の剥奪に加え、来夏に迫ったリオデジャネイロ五輪へのロシア選手の出場は認められない、という厳しい処分となった。
さいたま国際マラソンへの出場取り消しとなったタチアナ・アルヒポワ(左から2番目)。会見では渋井陽子(同4番目)らと記念撮影に収まっていた 【写真は共同】
過去にも国ぐるみで行われていた
過去に米ソが冷戦状態にあった際、スポーツ、特に五輪において彼らはメダル数を争い、火花を散らしていた。特に東側諸国は国威発揚のために政治家たちはスポーツを大いに利用していた。冷戦が終わり、ソ連がロシアに名前を変え、さまざまな部分で国や人が変わっても、国威発揚のためのスポーツの利用、そしてメダルを獲得するには手段を選ばない、という考え方は変わらなかったようだ。
特に東ドイツが国ぐるみでドーピングを行ってきたことは周知の事実だろう。多くの女子選手が筋肉増強剤を投与され、のどぼとけが出たり、ヒゲが生えたり、またガンなど、その副作用で苦しんでいる人も多いといわれている。しかし、問題が発覚したのは冷戦終了後、つまり東西ドイツが統一された後のことだったため、今回のように国際的な処分は下されなかった。当時はドーピング検査自体もほとんど機能していなかったことも、国や組織への処分に至らなかったと言える。
ここ数年、陸上界ではインドやケニアなどで組織的なドーピングが行われているというニュースが出た。2010年の広州アジア大会、インドのデリーで開催された英連邦競技大会では中長距離でインド女子選手の活躍が目立ったが、それから数カ月後にドーピング検査で陽性反応が出て、処分を受けている。インド政府が雇ったウクライナ人コーチの勧めで薬物を使用したと言われている。ケニアは昨年10月にマラソン選手のリタ・ジェプトゥーの違反が発覚。医者なども薬物投与に関わっていると言われている。どちらの国も発覚した規模が小さかったこともあり、対象選手の処分とWADAからの指導に留まっている。