ロシア陸上界、ドーピング問題の背景 大スキャンダルに発展した理由は?

及川彩子

自国のドーピング機関が機能せず

モスクワ反ドーピングセンターにも向けられた疑いの目。WADAは同センターの公認を停止した 【写真:ロイター/アフロ】

 ロシアの場合、自国で反ドーピング機関を持っているにも関わらずほとんど機能していなかったこと、それに政府も関わっていたとされること、五輪でメダルを取った選手の違反が次々と発覚しつづけたことなど非常に大きな問題になっている。さらに国際陸連を買収するという暴挙にも驚きだ。

 2年ほど前までロシア陸連で働いていたロシア人の陸上関係者は以前、「90パーセントのロシア選手がドーピングをしていると思う」と平然と話していたが、それは彼女の主観的な意見というよりも、ロシア陸連で働いて見聞きしたことを総合した、客観的な意見だったのだろうと思う。

 しかし驚くべきは、その後の言葉である。
「ロシア選手は国内に留まり過ぎ。将来的には私が代理人になって、彼らを世界で活躍させてあげたい」と言っていた。90パーセントもの選手がドーピングをしていると考えながら、そういう選手の代理人になりたいという考え方は、理解に苦しむ。裏を返せば、金銭を獲得するためにはドーピングをしている選手の代理人になることも厭わない、と読み取ることもできる。

 余談になるが、知り合いの米国人代理人は「クリーンな選手としか契約(ビジネス)しない」という信念を持ってビジネスを行っている。フィールド競技を中心に現在15名ほどの選手を抱えているが、現在いる選手も、過去に扱っていた選手の中にも処分を受けた選手がいない。ドーピングをしている可能性を予想しながら契約する代理人は、世界的に見ても非常に少ないと思う(その少ない代理人たちがドーピングを勧めている場合もあるのが現実だが)。

 今回の一連のニュースを見ると、処分を受けた選手などは関係者に、プーチン大統領をはじめとした関係者たちは選手に、互いに責任をなすり付け合っている。「見つからなければ何をしてもいい」という考え方が根底にあるのは明白だ。

 スポーツ相をはじめ、コーチなどもに処分は下されているが、トカゲの尻尾切りで、抜本的な解決にはならないだろう。本来であれば、WADAが直々にロシアでドーピング検査を行うべきだが、入国にはビザが必要となり、政府も含めた邪魔が入る可能性もあり、現実的にはかなり難しいだろう。

 ロシアはこれまでの世界大会で常に20個近いメダルを量産していたが、今夏の北京世界陸上でわずか4つしかメダルを取れなかった。ちなみに冬季五輪でのメダル獲得数は、10年バンクーバー五輪で15個だったが、14年にロシアで行われたソチ五輪では33個にも上る。わずか4年間で2倍以上のメダルを取れたのは、「国を挙げた強化が実ったから」だけだろうか。

リオ五輪へのロシア出場は?

 WADAはすでにロシア陸連を資格停止するように国際陸連に勧告したが、13日に国際陸連が暫定的な資格停止を発表した。これは実質的にリオ五輪からのロシア締め出しを示唆しているとも言える。しかし国際オリンピック委員会は「リオ五輪までにロシアが是正する可能性がある」と声明を出しており、各機関の足並みはそろっていない。

 リオ五輪までまだ9カ月近くあるため、今回の決定が解除される可能性もある。国際陸連がロシア陸連に対し強硬策を取り続けられるのかという疑問も残る。国際陸連のトップやメディカル担当者が賄賂を受けとっていたこと、また北京世界陸上前にロシア絡みのドーピング問題が出て、選手やメディア、関係者から「ロシア代表は出場停止を」と声が挙がっていたにも関わらず、その声を無視していた事実も見逃せない。

 8月に国際陸連の会長となったセバスチャン・コー氏はロンドン五輪組織委員会の会長を務めていたが、その際に「反ドーピング」を叫び、過去にドーピング違反をした選手を五輪に出場させないという発言をしていた。特に米国選手への当たりは強く、特定の選手へ個人口撃をしていたことは記憶に新しい。しかし昨年あたりから展開していた国際陸連の会長選の際には、票集めのためか「反ドーピング」に対しては明らかにトーンダウンしている印象があった。ドーピング問題が出ていたロシアやジャマイカ、ケニアを訪問した際にもそういった意見は出なかった。そのあたりの理由も今後明らかになるのだろうか。

 いずれにしても今回のドーピング問題は、陸上界だけではなくスポーツ界全体の氷山の一角だと言える。解決策はあるのか、そしてクリーンなスポーツはあり得るのか。その闇はとても深い。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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