侍ジャパンが「大切な」福岡で潰せた課題 「ミスのない確実な野球」で世界一へ

田尻耕太郎

嶋のサヨナラ打で小久保監督も笑み

プエルトリコとの強化試合第2戦は嶋の一打でサヨナラ勝ち 【写真は共同】

 お世辞にも盛況とは言えないスタンドだったが、最後の最後に大いに盛り上がった。11月6日、プエルトリコと対戦した強化試合の2試合目は、侍ジャパンが逆転サヨナラ勝ちを収めた。

 1点ビハインドの9回裏、先頭の坂本勇人(巨人)が左前打で出塁。1死三塁として、まずは1番・秋山翔吾(埼玉西武)が左中間タイムリーで同点に追いついた。その秋山がすかさず二塁へ盗塁を決めると、ヒーローは嶋基宏(東北楽天)だ。食らいつくようにレフトへはじき返したヒットがサヨナラの一打となった。まさに劇的――。小久保裕紀監督も「本戦に向けていい終わり方になった」と試合後のお立ち台では笑みをこぼした。

 いや、しかし、プエルトリコを相手にこんな試合展開になるなど、思いもしなかった。プエルトリコ代表は2年前のWBCで、準決勝で日本を破り準優勝を果たしている。だが、今回のチームはまるで別物だ。カルロス・ベルトラン(ヤンキース・2015年までメジャー通算2454安打、392本塁打)やアレックス・リオス(ロイヤルズ・同1778安打、169本塁打)といったビッグネームどころか、メジャー40人枠の選手すらいない。

 そのWBCでもチームを率いたエドウィン・ロドリゲス監督は「今大会はMLBの協力が得られなかったし、実績のある選手も国内ウィンターリーグ優先で若手中心のメンバーを選ばざるを得なかった」と語っていた。5日の初戦。侍ジャパンは、打線が2本塁打を含む12安打8得点を挙げれば、投手陣は計18三振を奪ってみせた。力の差は明らかだった。

武器である投手力が上々の出来

 プレミア12の本戦は8日に開幕する。不安の声は上がるだろうし、勝ったとはいえメディアも厳しい論調になるだろう。だが、やはり日本にはプレミア12の初代世界一になってほしい。なので、ここではポジティブな情報をお届けしたい。

 小久保監督は「日本の武器は投手力」と語っていたように、投手陣は全体的にいいものを発揮していた。抑えとして期待がかかる松井裕樹(東北楽天)が急きょ選手登録されたコーチにヒットを打たれたり、菅野智之(巨人)がまさかのボークで失点したりする場面もあったが、強化試合は試合勘を取り戻すことが最大のテーマ。まあ、ご愛嬌である。

 久々の実戦登板の中でも、エース前田健太(広島)はさすがのピッチング。初戦に先発して3回8奪三振の快投を見せた。則本昂大(東北楽天)も1回3奪三振と力でねじ伏せた。2戦目で投げた牧田和久(埼玉西武)は独特のアンダースローに加え、クイック投法なども取り入れて相手打者を完全に幻惑させた。やはり国際大会では面白い存在になりそうだ。

日本にとってプラスに働く公式球

 なにより、日本の投手にとってプラスに働くのが今大会の公式球だ。WBCや昨年の日米野球では、メジャーリーグの公認球(ローリングス社製)が使用されたが、プレミア12の公式球は日本プロ野球統一球と同じミズノ社製のボールが使用される。

 ミズノの担当者は「統一球と全く同じではありません」というが、選手たちの反応は上々だ。前田健は初めて触った瞬間に「なんか高校野球の時のボールと似ている」と話せば、数少ない左腕として期待のかかる大野雄大(中日)は「違和感はない。何か軽いような…、いや僕の肩が軽いのかな(笑)」とジョークを飛ばす余裕も。

 メジャー球のように「縫い目が高くて、表面が滑りやすい」「日本のボールよりも大きい」という悩みがないのは、日本の投手陣にとって非常にありがたい話なのだ。

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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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