ブンデスで成長曲線を描き続ける原口元気 2年目で目指すは「シーズン10点」

元川悦子

多彩な役割を柔軟にこなせるアタッカーへ

試合ごとにポジションが目まぐるしく変わる今季だが、頭の中で役割を整理しながらレギュラーに定着している 【Bongarts/Getty Images】

 迎えた今季、彼は8月15日のリーグ開幕戦・アウグスブルク戦(1−0)こそベンチスタートとなったが、続く21日のブレーメン戦(1−1)からレギュラーに定着。この試合で4−1−4−1の右サイドで90分間フル稼働したと思いきや、次の30日のボルシア・ドルトムント戦(1−3)では予想外の1トップで起用される。このゲームではサロモン・カルーがベンチに回り、ヴェダド・イビセビッチが離脱したことから、そういう起用法になった模様だが、原口は絶好調のドルトムント相手に体を張った献身的な守備で懸命に苦境を打開しようとした。その頑張りは見る者の目を引いていた。

 さらに、9月のインターナショナルブレーク明け、12日のシュツットガルト戦(2−1)では4−2−3−1の左サイドに抜てきされる。またも新たなポジションでピッチに立つことになった彼は、今季初ゴールを奪ってチームの勝利に大きく貢献。「多彩な役割を柔軟にこなせるアタッカー」というイメージをドイツ国内外に植えつけた。

「自分はそんなに不器用な選手ではないので、どこをやれと言われても、たぶんできるっちゃできる(笑)。いろいろなことに応えられる能力をある程度は持っているとは思います。

 ただ、監督からどういうところを評価されているのかはよく分からない。たぶん『何事もきちんとやる』という日本人の良さを買ってくれているのかなと感じます。それを実行できるだけの技術と器用さも日本人は持ち合わせている。今のところ僕自身は、この状況を割り切って楽しんでいます。トップに入れば点を取るチャンスも増えますしね。前のポジションはどこでも意欲的にトライしていけると思います」と原口は努めて前向きに話していた。

 実際、その後も試合ごとにポジションが目まぐるしく変わっている状況だが、それを本人はしっかりと受け入れ、頭の中で役割を整理しながらプレーを選択している様子だ。

目標は「シーズン通算10ゴール」

「僕のポジションでヨーロッパで10点取れたとしたら、それは評価していいんじゃないかな」と目標を口にした 【元川悦子】

 日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督もヘルタでの起用法を参考にしているのか、今年6月のシンガポール戦以降、本職の両サイドアタッカーだけでなく、ボランチや右サイドバック(SB)で原口を起用したことがあった。本人は「SBはどうかな……」と苦笑しつつも「ポジションへのこだわりは減りましたね」と率直な思いを打ち明ける。

「Jリーグにいた頃の自分はドリブルのイメージが強かったかもしれないけれど、今は幅が広がったのかなと実感しています。いろいろなことができるのが楽しい。そういう中でもドリブルが自分の武器なのは間違いない。それを生かしながら、結果を残したいですね」

 こう話すように、本人は今、非常に穏やかな気持ちでサッカーに臨めている。ドイツ語学習によるコミュニケーション力向上や今夏の結婚も精神面の充実に寄与しているのだろう。メンタルが落ち着けば、パフォーマンスも安定する。原口は確実に成長曲線を描き続けている。

 とはいえ、今季まだ1得点というのは不完全燃焼感が強いはず。岡崎慎司が昨季まで過ごしたマインツで2シーズン連続2ケタゴールをマークし、その後を引き継いだ武藤嘉紀がすでに6得点を挙げているのを見ると、彼の負けじ魂に火がつくのは当然だ。

 もちろん彼らとはポジションが異なるため、単純な比較はできない。そういう中でも、原口本人は3試合に1点ペースで得点でき、シーズン通算10ゴール以上をコンスタントに奪えるような選手になれれば、1つの成功だと考えている。

「僕のポジションでヨーロッパで10点取れたとしたら、それは評価していいんじゃないかなと。それを1シーズンだけではなく、2年、3年と継続できたら理想的。本当に力をつけて、少しずつゴール数を増やしていくのが一番いいですね。そういう意味でも岡崎選手は大きな目標。彼から多くのことを学びながら、これからも成長していきたいです」

 今季ブンデス前半戦は残り6試合。対戦相手には清武弘嗣、酒井宏樹の所属するハノーファー(第11節終了時点で14位)や今季昇格組のダルムシュタット(同13位)など下位チームとの対戦が少なくない。ここでゴールを積み重ねることができれば、原口の言う「シーズン10点」に届く可能性はある。

 今季は彼にとって多彩さと怖さ、決定力を兼ね備えた万能型アタッカーへと飛躍を遂げるチャンス。それをしっかりとつかみ取ってほしいものだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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