データで勝利を呼び込む湘南ベルマーレ J1残留で曹監督が得た手ごたえ
データを活用しながら勝利を重ねる湘南
データを積極的に活用する監督として知られている曹監督 【スポーツナビ】
J1セカンドステージ第14節で、FC東京に2−1で勝利し、J1残留を決めた湘南ベルマーレ。その指揮官である曹貴裁(チョウ・キジェ)は、データを積極的に活用する監督として知られている。
現代サッカーにおいて、すでにデータは切り離せない存在になった。それだけに注意したいのは、その活用法である。
“データは嘘をつく”という言い回しを、耳にしたことがあるだろうか。もちろん、意志を持たないデータが嘘をつくはずもないが、この擬人的な表現は、人間がデータの扱い方を間違えると、とんでもなく的外れな結論に行き着く恐れがある、という警告でもある。
サッカー監督は、どのようにデータと付き合うべきなのか。その点について、曹監督の考えを聞きたい。このインタビューでは、Jリーグ公認データを提供しているデータスタジアム社協力のもと湘南の分析データを用いて、同監督にさまざまな疑問をぶつけてみた。
走行距離とスプリント数について
走行距離とスプリント数はいずれもJ1トップ。走る湘南スタイルの看板とも言えるデータである 【写真:アフロスポーツ】
「どっちかといえば、走行距離よりも、スプリントの回数を気にしています。特に今年苦しんだのは、相手がボールを持ったときのスプリントが増えたこと。J1では、相手がボールを持ったときにどうしても動かされるから、それに対してプレスバックするスプリントが増える。攻撃でのスプリントは、まだまだ足りないと思っています」
攻撃のデータについて
【スポーツナビ】
「これは僕もね、ずっと見ていた数字です。今年はペナルティーエリアの脇とか、ゴールまで30メートルのラインは越えるんですけれど、エリアの中に入る回数は、J2の頃より1試合で7〜8回少なくなっている。ということは、得点率も下がると僕は思っている。
ただ、なんて言うのかな。このことは、覚悟していた。いきなり攻撃の質が上がって、J1でさらにシュートが増えるとはそもそも思っていない。特にJ1は、多少崩させてもボックスの中で守れればいい、という守備をするチームが非常に多いし。
でも、これをJ2で出した数字に近づける努力を日々していかないと、チームは右肩上がりにならない。このデータは、その指標になっていた。今日1センチ進んだな、明日1センチ進んだなという感じで、積み上げて、近づいている実感はあります」
「データを使って練習を本当にしっかりやらせる」
「データは使うんだけれど、どんなに統計を見ても、試合のパフォーマンスにつながるとは限らない。理詰めで勝てるほど、サッカーは単純ではないので。だけど、データを使って練習を本当にしっかりやらせる、選手に納得してやらせることは、絶対にパフォーマンスが変わってきます。
コンディションとか、練習の作り方とか、試合の采配とか、データは全部に関わってきます。逆にデータを使えないと、これからのチームは伸びない。口でイメージだけを言う、そんな時代ではないと思います。今の選手たちは本を読まないし、目に見えるものしか信じないから。考えるとか、ちょっと想像するという習慣が、明らかに僕らの年代より少なくなっている。逆に言えば、目に見えるデータは、彼ら世代にはバッチリ入りますよ。それを文学的に言っても入らないし、『お前らで解決しろ』って話しても、たぶん解決しないです。そういう教育を受けていないので」
物があふれる物質主義の現代だからこそ、目に見えるデータを提示する意義は大きい。選手にやる気、手応え、充実感を与え、めざす目標を明らかにすることができる。これはサッカーチームに限った話ではないだろう。