羽生結弦の演技の向こう側にある存在 助力となるコーチ、振付師、チームメート

長谷川仁美
 名前がコールされて氷の上に立てば、フィギュアスケーターはたった1人。だが、どのスケーターの後ろにも、たくさんの人たちがいる。たとえば羽生結弦(ANA)の向こう側にいる人たち――。彼らがどんなことを考え、どのように羽生と関わっているのか、その一端を見てみよう。

羽生の主張を尊重するオーサーコーチ

コーチのオーサー(左)はできるだけ羽生の個性を尊重するようにしている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 コーチのブライアン・オーサーは、20歳から21歳になる今シーズンの羽生を、少年期を終えて1人の男性として成熟する時期を迎えていると捉えている。

「こうした時期には、自分が自分の人生の主人公であることに疑いを持たず、たくさんのことを自分で判断するようになります。そんな自覚を、ユヅルの中にも感じています」

 だからこそ、羽生の主張を尊重する。新シーズンのフリープログラム『SEIMEI』(映画『陰陽師』より)は、「挑戦というか、自分の幅を広げてみようかなという思いがあって、いろいろ音楽を聞きました。試行錯誤して、和モノがいいなと思ったんです」と羽生が自分で探し、選んだ曲だ。

 オーサーは新プログラムについて、「フリーはシェイ=リーン(・ボーン)と作りましたが、彼(羽生)は新しいスタイルを学ぶのをためらわなかったし、実際に、1つのスタイルにはめてしまうには、彼はあまりにも若い。(『SEIMEI』は)ユヅルにとってとても目新しいし、ジャッジにも新鮮に映りますね。彼の素晴らしい一面を引き出すものになるでしょう」と言う。

 羽生が新しいことを学ぼうとする積極性や自分で考えて行動に移す姿勢を、オーサーはそのまま受け止める。個性を尊重し、できる限り羽生の考えたものに沿っていく。

 だが、譲れないこともある。今なら、「次の五輪まで、羽生を健康で過ごさせる」ことだ。

「今シーズンのユヅルは、昨シーズンほど多くは、アジアでの大会に出場しません。そのことに、ほっとしています。昨シーズンよりもずっと長く普段のトレーニングができ、それが安定した演技につながります」

「動きの幅をもっと広げてもらいたい」(ボーン)

シェイ=リーン・ボーンが振り付けたフリーの『SEIMEI』 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 振付師たちも、それぞれのプログラムに、羽生への思いや課題を盛り込んでいる。

 フリー『SEIMEI』を振り付けたボーンにとって、羽生のプログラムを作るのは、昨シーズンのフリー『オペラ座の怪人』に続いて2度目になる。

「スケーターとの関係性が強くなって関わりが増えるほど、よりよいプログラムを作れると感じています。昨シーズンのユヅルと私は、お互いがどんな人なのか知ることでいっぱいいっぱいでした」

 今シーズンは2度目だからこそ、より深まった振り付け作業に取り組めたという。

「役にのめり込んでほしいですね。この曲は、日本映画のサウンドトラックということくらいしか知られていないので、演じる役について(有名な曲を使う時よりも)もっと探求できますので。それから、動きの幅をもっと広げてもらいたいとも思っています。もっと上に伸びたり、低いポジションをキープしたりと、高低のある動きを見せてほしい」

 ボーンはそんな思いを持って振り付けた。

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著者プロフィール

静岡市生まれ。大学卒業後、NHKディレクター、編集プロダクションのコピーライターを経て、ライターに。2002年からフィギュアスケートの取材を始める。フィギュアスケート観戦は、伊藤みどりさんのフリーの演技に感激した1992年アルベールビル五輪から。男女シングルだけでなくペアやアイスダンスも国内外選手問わず広く取材。国内の小さな大会観戦もかなり好き。自分でもスケートを、と何度かトライしては挫折を繰り返している。『フィギュアスケートLife』などに寄稿。

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