遠い過去となった「ジョホールバル」 10年ぶりのイラン戦に臨む日本代表
1カ月ぶりのテヘランにて
1カ月ぶりにテヘランに戻ってきた日本代表。イラン戦2日前の練習は非公開となった 【宇都宮徹壱】
ところで今回の再訪では、取材ビザの発給が大きなネックになった。9月に訪れた際はまったく問題なく在日本イラン大使館で取得できたのだが、今回は文化イスラム指導省というところがなぜか取材ビザの発給を渋り、現地を訪れる取材者全員が日本での取得を断念してシリア戦が行われるオマーンに飛んだ。その後も日本サッカー協会(JFA)、イランサッカー連盟、そして在オマーンのイラン大使館など関係各所の懸命の働きがけにより、シリア戦当日になってようやくビザが発給されることとなった。オマーンでの取材中も、本当にイランに入国できるのかどうか気が気でなかったが、JFAスタッフの皆さんが抱えるプレッシャーは尋常でなかったはずだ。この場を借りて御礼申し上げたい。
このようにイランという国は、取材者として入国するにはかなりハードルが高いものの、いったん入ってしまえば意外と快適な国でもある。地下鉄やバスは『Suica(スイカ)』のようなチャージ型カードで乗れるし、駅名や地図には必ず英文が併記されているし、ちょっとした店に入れば普通に英語が通じる。アルコールが飲めないこと、女性はヘジャブと呼ばれるスカーフを被らなければならないことなど、イスラムの戒律によるいくつかの制約はあるものの、それらを除けば感覚的には東ヨーロッパの国々とさほど変わらない。あくまでテヘラン限定ではあるが、整然と動く地下鉄に乗ったり、きらびやかなショッピングセンターで買い物をしたりしていると、ちょっとした先進国にいるような気分にさえなる。そんな中で、今年2回目のイラン取材がスタートした。
「ジョホールバル? 知らないです」
ランニングに汗を流す吉田(中央)。10年前のイラン戦は「全然覚えていないです」 【宇都宮徹壱】
「イランは非常に良いチームだと監督からも聞いているし、FIFA(国際サッカー連盟)のランキングも日本よりも上。当然ピンチというのはあると思うんですけれど、しっかりと防ぐ準備はしていきたい」(西川周作)
「中東の中でもよりチームが組織化されているし、前線に何人か良い選手がいると聞いている。今までみたいに簡単に勝てる相手ではないけれど、後ろはやることが一緒ですから。無失点を続けていくことが大事」(吉田麻也)
「前半、彼らは飛ばしてくるだろうし、フィジカル的なサッカーになると思う。そういうところでブレずに、お互いの連携だったり動き出しだったりを意識できたらと思います」(香川真司)
選手たちのイランのイメージというのは、(1)FIFAランキングが日本より上、(2)高さがあってフィジカルが強い、(3)前線に大きくてうまい選手が数人いる、以上3点に集約される。逆に言えば、それ以上のイメージはないということになる。ある記者が、97年のジョホールバルの話を持ちだしたとき、武藤嘉紀は「ジョホールバル? 知らないです。あ、場所の名前ね。(W杯のアジア予選突破を)決めたのは知っていますけど」と答えていて、思わずのけぞりそうになった。吉田もまた、05年のアウェーのイラン戦(1−2)の思い出を聞かれ、「全然覚えてないですね」と告白している。
現在23歳の武藤が、18年前のジョホールバルを知らないのは、ある意味無理もない話である。が、吉田が10年前のイラン戦を記憶していないというのは、思いもよらぬことであった。とはいえ日本が05年以降、一度もイランと対戦していないのもまた事実であり、今の代表メンバーがイラン代表についてのイメージを持ち得ないのも仕方のない話なのかもしれない。今年1月のアジアカップでは、テンションの高い舞台で10年ぶりに彼らと対戦できるチャンスがあったわけだが、日本はその前に大会から去ってしまった。実際のところイランは、最終予選で対戦する可能性が十分にある相手だ。その意味で今回のアウェーでの親善試合は、のちのち大きな意味を持つことになりそうな気がする。
<翌日につづく>
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