トゥヘルがもたらしたドルトムントの変化 ドイツ王者に大敗も、信じて歩む新たな道
好調なスタートもドイツ王者に惨敗
ボルシア・ドルトムントに5−1と完勝した試合後、ジョゼップ・グアルディオラ監督はそう語った。そうは言うものの、バイエルン・ミュンヘンを追い続けるヴォルフスブルクと同じスコア(ブンデスリーガ第6節)で、ミュンヘンにて辱められた格好だ。
だが、ドルトムント相手の大勝を告げる試合終了のホイッスルの後、世界王者の一員であるジェローム・ボアテングの言葉が印象深く響き続けた。
「ドルトムントは、僕らに対する迫害者であり続ける」
戦術的にも納得のシーズンスタートを切り、ドルトムントはブンデスリーガで大きな尊敬を集めていた。新監督のトーマス・トゥヘルは、確かにドルトムントを進化させていた。これまでゲーゲン・プレッシング(高い位置でボールを奪い、攻撃を仕掛ける戦術)のマシーンとなっていたチームは、ボールポゼッションという点で向上を見せた。最初の数週間で、ドルトムントは自分たちがドイツのけん引役であることを証明した。
一方で、ミュンヘンでの1−5の大敗で、この2年間この国の中心に突き刺さってきた大きなクギは健在であることも明らかになった。バイエルンはいまだ、あらゆる物事の物差しであり続けている。
魔法が解けた14−15シーズン
この数年ドイツのサッカーさえも進化させてきたクラブは、忠誠心強い膨大な数のファンを喜ばせてきたが、突然暗闇に陥ってしまった。「真の愛」、クラブが掲げるスローガンが、試されようとしていた。
ドルトムントは降格圏の17位で冬の中断期間に入った。バイエルンに恐れるということを教え、新たな関係をドイツサッカーに持ち込んだドルトムントは、本当に2部に落ちてしまうかに見えた。だが、春の訪れの声に導かれるように、ドルトムントは目覚めていった。17試合で勝ち点31しか挙げられなかったチームが、ヨーロッパリーグ(EL)プレーオフへの挑戦権を手に入れるまでに回復したのだ(最終順位は7位)。
だが、この大混乱のシーズンの傷跡が、完全に消えたわけではなかった。魔法は消えた。そして、魔法使いは去った。クロップは4月中旬、シーズン終了後の退任を発表した。またもクラブとリーグが揺れた。
ボール保持率を高めて安定感を増す
サッカーサイト『GOAL』で執筆するシュテファン・デーリングは、「トゥヘルはクラブに新たな幸福感をもたらし、プレーも変えていった」と話す。ドルトムントはボール保持率を大幅に上げ、安定感も増した。パスサッカーを、強く打ち出すようになっている。「加えて、チーム全体を向上させるため、トゥヘルは細部も変更していった」とデーリングは続ける。
「選手たちがボールを足元に持つ時、ボールを遠目に置くようにさせた。こうすることで選手はさらに早く反応することができ、視野もさらに広く確保できる。おかげでチームとしてボールをさらにうまく、遠くへと走らせられるようになった。フリーのスペースが見つかるまで、ボールは長く前後へと動かされ続ける。クロップによりブランド化された襲撃的なサッカーは発展を遂げ、より組織的なものになった」
『西ドイツ新聞』のセバスティアン・ヴェスリンクも、チームの成長を証言する。
「トゥヘルは攻撃のレパートリーを大幅に増やし、超守備的な相手に対しても多くのチャンスを作れるようにした」
ヘンリク・ムヒタリアンや香川真司、イルカイ・ギュンドアンといった選手たちは、力強さよりも正確性を打ち出してプレーを紡ぐ。EL出場権も手にし、さらにはそれほど厳しくないグループに入った。チームのプレーを磨き、自信を再燃させるには十分な舞台となるはずだ。