セナに並んだハミルトン、重なる光景 “F1の行方”見守る現場は慌しく

田口浩次

喜ぶハミルトンにシューマッハを思い出す

理想的なレース展開で優勝したハミルトン。通算41勝で憧れのセナに並び、無邪気に喜びを爆発させた 【撮影/石澤真美】

 F1日本GP決勝はすでに多くの人がご存じのように、予選2位のルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)が今シーズン8勝目、通算41勝目を挙げた。スタート直後の1コーナーでポールポジションのチームメート、ニコ・ロズベルグに並び、そのままトップを奪うと、53周の間、チェッカーフラッグを受ける最後まで一度もトップを譲ることはなかった。

 レース前、多くの関係者が「もし晴れたらメルセデスが他を圧倒するだろう」「レースが面白くなる可能性は、スタートでロズベルグか、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)がトップに立ち、ハミルトンが追いかける展開のときだけだろう」といった具合に、ハミルトンの強さを認めた上で予想していた。今年の日本GPは、ハミルトンにとってまさに理想的なレース展開だったと言える。

 そしてもうひとつ、レース後のハミルトンで目立ったのが、通算41勝目、自身がアイドルと認める、故アイルトン・セナの勝利数に並んだことに対する感情の盛り上がりだった。セナの記録に並んだ感想を問われたハミルトンは「あまりの感動に言葉が見つからない」と答え、終始笑顔で、テレビ各局のインタビューを終えると、小走りにチームガレージへと戻っていったのだが、そのときも笑顔を絶やさず、近づくファンに可能な限りのサービスをしていた。
 それは表彰台でも同じで、シャンパンファイトを終えてFIA(国際自動車連盟)の公式記者会見場に向かう前、横にいたパドッククラブのファンに向けて、サインや記念写真サービスを行っていた。この光景を見た多くの古参ジャーナリストたちは、もうひとつの光景を思い出していた。

 2000年、イタリアGP決勝レース後のFIA記者会見でのこと。このレースで当時フェラーリのミハエル・シューマッハは、セナの記録に並んだことへの感想を求められ、その感情を抑えることができず嗚咽(おえつ)するように泣き出した。隣に並んでいた当時最大のライバルであったマクラーレンのミカ・ハッキネンと、弟でウィリアムズのラルフ・シューマッハに支えられるようにして会見を継続した姿は全世界に流れ、直接セナから王者を奪った立場で、セナの死によってセナの亡霊と常に比較されてきたシューマッハの重圧がどれほどのものだったかを物語っていた。

 あの光景と比較すると、ハミルトンの心情は、やはり憧れ続けたアイドルの記録に並んだ、少年が夢をかなえたようなものなのだろう。その後、ハミルトンは自身のツイッターにセナのマシンとヘルメットをアップさせるなど、シューマッハとの対応の違いが時代の流れを感じさせた。

自信の表れ、ダルマに勝利祈願しない

自信に満ち溢れたハミルトンは圧倒的な強さでレースを支配。スタートでトップに躍り出ると一人旅でゴールした 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 現在のハミルトンは本当に自信に満ちていて、それを感じさせるエピソードが実はレース前にあった。日本GPが開催される週の火曜日、ドイツ大使館で開催されたヒューゴ・ボスのパーティーにゲストとして登場した。用意されたダルマに目を入れて勝利祈願する日本の慣習を説明されると、ハミルトンは左目に目を入れたものの、日本GPでの勝利は祈願しなかったとコメントした。その理由を問われると、「僕は日本GPに勝つためにやってきた。普通に戦えば勝てると信じている。だから祈願はしない」と言い切った。

 土曜日の予選Q3では、ダニール・クビアト(レッドブル)がクラッシュし、残り36秒で赤旗中断となって、そのまま終了。ハミルトンは最後のアタックチャンスがないまま予選2位となったが、その顔には余裕があり、言葉でこそ残念と言ったものの、悔しさは微塵も感じられなかった。フロントロースタートなら、勝てる自信があったのだろう。実際レースがスタートすると、国際映像にはほとんど映らないほどの一人旅で勝利を獲得した。レース後のハミルトンが、まるで初優勝したドライバーのように感情を爆発させ、ずっとご機嫌だったのも、憧れ続けたセナのように圧倒的な強さでレースを支配する走りが実現できたからではないだろうか。

 さて、日本GP決勝は、レース前にインタビューに応じた、元マクラーレン・ホンダのドライバー、ゲルハルト・ベルガー氏の予想通りの展開となった。

 ベルガー氏は、ハミルトンが圧倒し、予選ではロズベルグにチャンスがあり、若手の中では史上最年少(17歳)ドライバー、マックス・フェルスタッペン(トロロッソ)がズバ抜けていると語った。レースはその言葉通りにすべてが展開していった。

 なかでも、フェルスタッペンの走りは見事だった。17番手グリッドからスタートし、途中フェルナンド・アロンソ(マクラーレン・ホンダ)やチームメートのカルロス・サインツとの争いを制して9位入賞を果たした。この走りを見ていた父親のヨス・フェルスタッペンはレース後、「マックスは毎レース成長しているが、この鈴鹿での成長はひときわ大きかったと思う。なぜなら、鈴鹿サーキットはドライバーにとって最もタフで挑戦的なコースであり、結果として17番手グリッドから9番手まで、マックスは競い合って順位を上げていった。先週のシンガポールGPも最後尾から入賞という素晴らしい成長を見せたが、今回の日本GPはそれ以上だったと確信している」と答え、息子の成長ぶりを喜んだ。

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