ホンダ“サイズゼロ”に未来はあるか 元フェラーリ浜島裕英が今季戦いを解説

田口浩次
 元ブリヂストンのエンジニアとして1997年から2010年までのF1活動の中心人物として活躍し、12年から14年までフェラーリで働いていたエンジニアの浜島裕英氏。モータースポーツ最高峰の舞台で長年戦い続けてきた浜島氏に、現在のF1はどのように映るのだろうか。メルセデスAMGの圧倒的な強さ、ホンダのパワーユニット(PU)について、思うところを聞いた。専門家の声に耳を傾け、日本GP観戦に役立てほしい。インタビューは2回にわたってお届けする。(取材日:9月17日)

メルセデス圧勝はテスト制限が大きい

昨季に続き、今季も圧倒的な強さを見せているメルセデス(手前)。浜島さんは「予想できたこと」と分析する 【Getty Images】

――まず、今シーズンもメルセデスが圧倒的な強さを見せています。過去にもマクラーレン・メルセデスやフェラーリ、レッドブルなど、抜群の強さを誇ったチームはありますが、シーズンを通して圧倒していることはまれでした。果たして、過去の強豪チームとは何が違うのでしょうか?

 私の経験から言うと、03年から04年にかけてフェラーリが強かったとき、開幕戦直後にジャッキー・スチュワートが『今年もフェラーリか』とコメントしたことを覚えています。それでも、シーズン終盤にはライバルたちもフェラーリに追いついてきました。それと比べると今年のメルセデスは別格です。

 でも、これは逆に予想できていました。というのも、昨年からスタートした現在のレギュレーションでは、パワーユニットの熟成度が速さに直結しています。メルセデスはV8エンジン開発凍結のころから、この新しいレギュレーションに向けて一生懸命開発を進めていて、昨年あのレベルで戦い始め、さらに実戦でさまざまな不都合をつぶして今シーズンを迎えました。それに対して、ルノーやフェラーリは、最初に出遅れ、そこから1年かけて動くようになってきました。丸々1年遅れているのです。一方、今年のメルセデスは弱点がなくなった。強いのも当然です。

――使えるエンジン数などももちろんですが、テスト自体が制限されていることは問題ですか?

 そうですね、サーキットでの実車テストができないことはとても大きいと思います。最近はコンピュータ技術でなんでもできると思われがちですが、実際にパワーユニットをクルマに組み込んでみると熱害が発生します。走らせてみないと分からなかった熱害が出てきます。97年のマクラーレン・メルセデスや04年のフェラーリが圧倒していたころは、ライバルも追いつくために、相手のアイデアが分かれば、すぐにテストしていました。レースとレースの合間にどんどんテストすることが許されていたから、リードしていても追いつかれるまでは早かった。それが現在のレギュレーションではテストが許されないので、相手の手の内が見えてもなかなか追いつけないですね。

――それでも、中堅チームのトロロッソやザウバーのように、伸びていくチームもあれば、ズルズル落ちていくチームもあります。何が違うのでしょうか?

 ザウバーに関して言えば、開幕時は悪くないマシンでしたが、予算がなくて相対的にズルズル落ちていきました。現在はレースをテストと捉えて、新しいパーツを投入し、シミュレーションとの差異を把握して、半歩でもいいから前に進む姿勢のチームが前に行きます。F1チームにいて本当にビックリするのは、彼らは本気で1000分の1秒の向上を議論するわけです。私は「それよりタイヤの使い方をもっと研究した方がいいんじゃ……」って思いがちですけどね(笑)。でも、何十人ものエンジニアが議論して、その試作パーツを作ります。FP(フリー走行)1やFP2に投入できるかどうか、それこそが前に進めるチームなのか、落ちていくチームなのかの境目だと思います。

鈴鹿はマシンセッティングが重要

日本GPはマシンセッティングがポイントになる。浜島さんはエンジニア視点で鈴鹿サーキットの特性を解説 【スポーツナビ】

――なるほど。予算が少ないザウバーは仕方ないとして、同じような予算規模や姿勢で戦っているチームでも、サーキットごとに順位が変動しています。メルセデス、それに続くフェラーリ以外は、混戦模様な気がしますが、実際はどうですか?

 大きいのはマシンの個性とパワーユニットのパワーデリバーの差はないかと考えられます。今のパワーユニットにおいては、各チームのパワーデリバーがマシンの差になって表れています。例えば、直線で速いウィリアムズやフォース・インディアは、パワーデリバーをストレートで放出するセッティングラップタイムを稼ぎやすいと想像できますが、フェラーリやレッドブルなどダウンフォース重視のチームはコーナーなどでパワーデリバーするセッティングの方が利得が大きいと考えられます。だから、ストレートが長いサーキットならばウィリアムズやフォース・インディアが前に行くし、ストレートが短いとフェラーリやレッドブルが前に行く。おそらく、直線とコーナー、ストップアンドゴーの割合をサーキットごとにしっかりと計算していくと、シーズン中盤までの予選順位は予想できた気がします。各車のキャラクターが今よりハッキリとしていましたから。

――となると、日本GPの鈴鹿サーキットはどういった個性を持ち、パワーデリバーをするチームが強いのでしょうか?

 鈴鹿はマシンセッティングも重要ですね。東コースと西コースがまったくキャラクターが違うので、どこにセッティングを合わせるのか。普通は2コーナーに合わせたり、ダンロップコーナーに合わせたりするのですが、東コースを速く走ろうとすると、ややオーバーステア気味なマシンセッティングになります。それが西コースを速く走ろうとすると、オーバー気味なセッティングだと、スプーンコーナー含め、ドライバーからすると怖いコーナーになってしまう。130Rは最近は各車全開ですけどど、やはりオーバー気味のマシンは怖いですよね。そこのバランスをどう取るのかが大切です。

 パワーデリバーに関しては、東コースでトルクを使って速く走ろうとたくさんパワを消費すると、130Rあたりで足りなくなってくる可能性もあります。でも、鈴鹿はMGU−K(運動エネルギー回生システム)に関しては、しっかり回収できるサーキットです。それだけに、鈴鹿のようなタイプのサーキットはMGU−H(熱エネルギー回生システム)がどれだけ効率よく回生できるかが勝負の分かれ目になりますね。

 MGU−Hをあまり使いすぎるとエンジンパワーが落ちます。ターボの回転を回生に利用するわけですから、パワーと相殺されてしまう。一般のクルマで言えば、エアコンを使うとエンジンパワーが落ちるのと同じです。ただ、充電効率が良いパワーユニットだと、エンジンパワーを多少、10馬力とか使っても、その分をバッテリーに充電して必要なときに放出できますから、結果、ラップタイムは向上します。だからMGU−Hの効率がすごく問われるわけです。レギュレーション上できませんが、極端なことを言えば、バッテリー容量がもっと大きくてMGU−Hが本当に効率的ならば、エンジンはただの発電機として回せばいいわけですから。

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