野球人生の原点だからこそ重要なこと 侍ジャパンコーチと考える高校野球
危険な子どもたちのトレーニング
現在は侍ジャパンU−12代表監督として、小学生世代の指導も行う仁志氏 【スポーツナビ】
仁志:12歳以下はあくまでも子どもで野球選手として始まったばかりです。去年も今年もですが、8割くらいは教育だと思って指導しています。僕らは短期間しか預かっていないので、技術に触れることのほうが危険です。変えたいと思ったら、イメージを与えて本人の中に浸透させていく感じです。
教えたことを彼らが吸収して大人になっても生かせるように、ということを考えるので、自分の発する言葉に責任と覚悟を持たないといけません。
青島:なるほど、鹿取さんのU−15になると、自分の行きたい方向性も、意識しているでしょうし、知識欲などもおう盛になると思うのですが、いかがでしょうか?
鹿取:彼らの場合、ちょうど子供と大人の間なんですね。ただルールを守ること、あいさつ、社会人になるための教育過程なのでU−12と同じです。
フィジカル面で気になるのは、右投げ左打ちの子がとにかく多いんです。たぶん高校野球まで浸透しているでしょうが、本来の打ち方ではないのに、左打ちに変えている可能性があります。あとはウエイトをやりすぎて、ずんぐりむっくりで筋肉が固まって大きくなっている子も多いですね。
青島:U−15でですか?
鹿取:ウエイトや重いバットを振って鍛えている可能性はあります。ただ、世界大会公式戦ではバットの重さには規定があり、重すぎるバットを振ると、可動域を広げてすぎて腱を痛めたり、骨折してしまう可能性があるので、非常に怖いです。彼らはまだ体ができあがっていないので、年代にあったウエイトを使ってほしいですね。
特にU−15はクラブチームの練習が土日だけ。平日はウエイトや個人練習になりますが、そこで間違ったことをやってしまうとゼロに戻ってしまいます。指導者は大変でしょう。
元プロが球児を指導する意味
鹿取:あくまでも高校野球は学校教育の一貫だと思います。学校は大人になるための準備でその中にたまたま野球が入っているだけです。たまたまそこで才能が開花し、良い結果が出ればプロに行く、そういった順番だと思います。
仁志:私もそう思います。今までの指導者の方と違うのは実際にプレーする技術を持っている人が教えている、というだけでしょう。結局、今の指導者の方がやっていることと同じことをやらざるを得ないんです。高校生なので教育は7割〜8割になると思うのですが、アマの方が懸念しているようなことはないと思います。
野球を「楽しむ」意味
プロ野球・ヤクルトでプレーし、現在はスポーツライター、キャスターとして活動する青島氏 【スポーツナビ】
鹿取:私は2011年からU−15の指導をしていますが、2人がプロに入って、今年の夏の甲子園には7人が出場しています。ただ、とにかく楽しくやってもらいたいですね。
青島:「楽しく」という言葉にもいろいろな要素があると思いますが、鹿取さんが考えるその意味は?
鹿取:目標設定をして、希望をもっていくことですね。そこで成長すれば高校、大学、プロといった上のカテゴリに行けるでしょう。試合に勝った後、負けた後にはいろいろな喜びがありますが、和気あいあいとやるだけではありません。楽しむためには技術を磨く、目標を設定する、それらを通じて自分の野球生活を自分でコーディネートする必要があると思います。
青島:成果が出ると楽しいですからね。
仁志:私はいつも言うのですが、「エンジョイ」という言葉は日本語に直訳できないのですが、どうしても「笑う」と履き違えていると思います。U−12の世界大会で一番規律が厳しかったのは米国だったんです。彼らは練習中の私語は一切なし。ダッシュで動き、帰るときもパッと帰ります。ただ、打席ではガンガン積極的に来ますし、点を取ったときの喜び方は、自由な米国人らしさを出すんです。指導者のスイッチの入れ方が上手なんです。
自分たちが振り返っても楽しかったのはうまくできた、とか、勝ったとか、全部が終わって振り返ったら全体的には楽しかった、ということでした。一生懸命やる、ということを目標にやってくれれば結果的には楽しいんだと思います。
(後編は9月29日に掲載予定)