ベテラン2人が見た今治の戦い 山田卓也×市川大祐対談 <後編>

宇都宮徹壱

この夏、今治に加入した2人の元日本代表、山田卓也(左)と市川大祐。彼らは地域リーグでの戦いをどう見ているのか 【宇都宮徹壱】

 9月20日の四国リーグの大一番、FC今治対高知Uトラスターの試合が今週日曜日に迫った。残り2試合となった現時点で、トラスターが勝ち点34で首位、今治が同31で2位。今治が逆転優勝するための条件を繰り返しておくと、まずトラスターとの直接対決を制すること。さらに最終節でも連勝し、裏の試合(アイゴッソ高知とのダービー)でトラスターが引き分け以下に終わること。つまり今治の自力優勝の可能性は、すでにないのである。

 今季、JFL昇格を目指す今治は、全国地域リーグ決勝大会(地域決勝)への出場権を獲得する必要がある。地域決勝に出場するためには、各地域リーグで優勝するか、全社(全国社会人サッカー選手権大会)で3位以内に入らなければならない。この全社という大会は、32チームが参加するトーナメントで、決勝までの5試合を連日戦うという「日本で最も過酷な大会」。ちなみに地域決勝もまた、1次ラウンドと決勝ラウンド、それぞれ3試合連続を戦い抜かなければならないのである。

 これまでにも「昇格請負人」として、何人もの元Jリーガーがこれらの大会に挑むも、そのあまりにも厳しいレギュレーションに戸惑う者は決して少なくなかった。この夏、今治に加入した2人の元日本代表、山田卓也と市川大祐。百戦錬磨とも言える彼らは、不条理とも言えるJFLに至る戦いをどう見ているのか。インタビューの後編は、このテーマからスタートする。(取材日:8月27日)

地域リーグでプレーしてみて

「藤枝にいたときに、地域決勝の大変さというのはチームメートから聞いていた」と、市川はJFL昇格への難しさを認識していた 【宇都宮徹壱】

――地域リーグについて話を聞かせてください。まずは1試合を経験してみて、このカテゴリーの難しさは感じますか?

山田 やっぱり暑い昼間の試合とか、公式試合で5連戦、3連戦とか、普通にビックリするよね。働いている選手がいるから仕方ないというのは分かるんだけれど、なんでもっと選手を大事にしようという発想にならないのかなと。

市川 全社なんかも、決勝までいけば5日間連続で試合をすることになりますよね。でもFIFA(国際サッカー連盟)のルールでは、最低でも(試合と試合の間は)48時間空けなければならないんですけれど。もちろん、このカテゴリーの事情や言い分はあると思うんです。地域決勝の短期決戦で勝ち抜かないと、上のカテゴリーに行けないわけで、連戦に耐えられるようにフィジカルを鍛えなければ厳しい戦いになりますね。

――市川選手はJ1からJFLまで、さまざまなカテゴリーでプレーしてきましたけれど、地域決勝とか全社の存在はご存じでしたか?

市川 藤枝(MYFC)にいたときに、地域決勝の大変さというのはチームメートから聞いていましたね。最初の年(2010年)は1次ラウンドで終わって、次の年はフィジカルをガンガン鍛えて地域決勝に向けて準備したと聞きました。JFLに上がるためには、フィジカル面が求められるんですよ。

――当時の藤枝は、清水エスパルスで一緒だった斉藤(俊秀)さんが選手兼任で監督をしていましたね。お二人のおっしゃることは、私ももっともだと思います。でも今治が上を目指すには、現行のルールに則って勝ち進んでいくしかないというのも事実です。

山田 だから、勝って物言いたいよね。例えばちょっと昔だと、練習中に水を飲まないことが常識だったわけじゃないですか。でもそれって、今考えるとすごく恥ずかしいことですよね。それと同じようなことで、そんなレギュレーションで公式試合をやっていることを世界のサッカー関係者が知ったら驚くと思いますよ。何度でも言うけれど、働いている選手のためだから仕方がないという理由は分かります。でも、それが本当にベストチョイスだとは思えないんですよね。

――地域決勝の苛酷さもさることながら、今治は四国リーグで優勝するか、全社で決勝に進出しないとJFL昇格への挑戦権が得られないわけです。9月にはアイゴッソ高知(1−1のドロー)、そして高知Uトラスターとの優勝を懸けた上位対決があるわけですが。

市川 今の順位を見ても、その上位3チームの争いになるでしょうね。この2試合でしっかり結果を出して、自分たちが昇格のチャンスをつかまないといけない。とても大事な試合であることは、選手の誰もが感じていると思います。

――山田選手は全社予選のあと、一人残ってアイゴッソの試合をご覧になっていましたね。

山田 選手としてやれることは全部やるのは当然でしょう。悔いは残したくないし。いずれにしても、やるべきことをやって勝たなければ話にならないからね。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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