プロ注目右腕・森下暢仁の秘めた強さ 未完の逸材は侍U-18代表で成長する

中島大輔

「注目される、しゃべるのは得意じゃない」

先発したチェコ戦では7回コールドの完封勝利。3ランを放った勝俣(左)とともに勝利の立役者となった 【Getty Images】

 森下のフォームは、左足をゆっくりと上げていくことに特徴がある。

「力をためて、ちゃんとした形で投げることを意識しています。『もっとスッて上げろ』と(大分商の渡辺正雄)監督に言われていたんですけど、そうやって上げるとバランスを崩してしまうので、ゆっくりバランスを崩さないようにやっていたら、こういうフォームになりました」

 大舞台を経験していない逸材は今後、どこまで伸びるだろうか。広島の苑田聡彦スカウト統括部長は「伸びしろは性格を見る」と話していたが、チェコ戦の後の囲み取材でじっくり観察してみた。

 感じたのは「気を遣う」ことと、「責任感が強い」だ。翌日、本人に聞いてみると、前者についてはその通りだという。後者については、こう答えた。

「自分で進んでやったりもするので。やらないといけないことは、自分で積極的にやるほうなので」

 ただ、責任感が強いか、否かは、考えたことがないという。口数が少ない森下は、照れくさそうにこう続けた。

「注目されるのは、あまり得意じゃないですね。(周囲に)意識されるのは苦手というか、しゃべるのもあんまり得意じゃないので(苦笑)」

観察と実行、勝てる投手の資質

 プロの投手は総じて、我の強い性格をしているものだ。その強さの見せ方には2種類ある。マウンドで強さを発散させるような性格と、黙々と内に秘めるタイプだ。
 後者の代表格が、埼玉西武の岸孝之。決して大言壮語せず、口数少なく自分の仕事をマウンドで遂行する。強さを自分の中に抱え込むことで、すべてのパワーをボールに込めているように感じる。

 果たして、森下は自分自身を理解し、感情をコントロールする方法を知っているだろうか。その答えで、伸びしろを推測することができる。
 推し量るため、「どんなメンタル状態のときに良い球を投げられるか」と聞いてみた。

「やっぱり、試合によって力を入れたりしてしまう部分があるので。力を入れたり、力んだりしたら球が浮いてくるので、淡々と投げているときの方が、調子が良いというか。調子が良いときは、淡々とそのコース通りにボールが行くので。それで内角も使って打ち取っていくのが、自分の持ち味だと思っています」

 取材当初は口数の少なかった森下だが、会話を重ねるにつれて言葉が増えてきた。他者に心を開くまで、時間のかかるタイプなのだろう。

 それは、今回の日本代表の中でも同じだ。「テレビで見ていた」面々と、今は同じチームで戦っている。そうした強い気持ちが、徐々に自分の中に宿ってきた。

「ここにいるということは、みんなと同じだと思っているので。自信というか、気持ち的には、チームの役に立てたのかなと思っているので」

 口数少なく、自分のやるべきことを淡々とやる。それが森下に秘められた強さだ。

「自分も高校のときは主力としてやらせてもらってきたので、みんなのことを見ていました。ケガとかもして、周りをよく見たりしていたときに、けっこう言う方なので。でも、思ったことはけっこう言いますね」

 じっくり周りを観察し、その中で自分がどう振る舞えば、自身とチームにプラスになるかと考えていく。それを実行できる能力は、勝てる投手の資質である。

「やっぱりこのチームで世界一になりたいので。自分が任されたときに、自分のピッチングをできるように。そして結果、ゼロで抑えるピッチングをして、チームに貢献していきたいです」

 日数を重ねるごとに場慣れし、力を発揮してきた森下は、強敵のそろうスーパーラウンドでどんな投球を見せるだろうか。まだ未完成の投手が重要な試合で結果を出したとき、逸材と評価される右腕はもう一皮むけているはずだ。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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