花咲徳栄が15日に行った“授業”の意味=漫画『クロカン』で学ぶ高校野球(10)
型破りな指導をする監督・黒木竜次が主人公の高校野球漫画『クロカン』を通じて、高校野球の現実(リアル)を考える短期集中連載の最終回のテーマは「ツキ」だ。
ツキは呼び込むもの
『クロカン』第7巻3話「ツキの流れ」より 【(C)Norifusa Mita/Cork】
「いいかガキども! ツキっちゅうもんは、待ってるもんじゃねえ! てめえで呼び込むもんだ!」
相手の極端なシフトにも臆せず、大竹の持ち味であるフルスイングを貫かせた結果、ツキを呼び込んだのだ。
常総・木内監督も意識した選手のツキ
2回戦の智弁和歌山高(和歌山)戦。5回表無死から2人の走者を出したところで、投手を磯部洋輝から飯島秀明にスイッチした。その理由がこれだ。
「磯部はつかなすぎました。非常にツキのないピッチングをしてるなぁと思ったもんですから。野球には運っていうのが必要でね」
磯部の許した走者はいずれも内野安打。2本目はフライになったバントに捕手が飛びついたが、ミットに当ててこぼしたものだった。救援した飯島はピンチを無失点で切り抜け、流れを呼び戻す。その裏に常総学院は勝ち越しの2点を挙げた。
実は、この大会の初戦・柳ヶ浦高(大分)戦でも、木内監督は「運、不運」を強調している。
2対1と常総学院リードで迎えた8回の柳ヶ浦の攻撃。1死二塁と、一打同点の場面で木内監督は外野に前進守備の指示を出した。ベンチから立ち上がって、何度も前に来るように合図を送る。その直後だ。高いバウンドで投手の頭を越えた打球がセンター前へ飛んだ。前進していた中堅手・泉田正仁は本塁へストライク返球。二塁走者を刺し、ピンチを免れた。
「あそこは一種の賭けなんですよ。前を守ってて、足がある、肩があるって人(泉田)のところに(打球が)行ったと。勝つときっていうのはそんなもんです。負けるときってのは前に出すと頭を越されっちゃうから。こっちがついてた、向こうがついてないということでね。野球は紙一重。強さじゃない、ツキなんです」
木内監督はそう言うが、もちろんこれは準備のたまもの。投手と打者との力関係や打者のタイプ、データなどから打球方向を予測した結果だ。決して偶然ではない。ちなみに、木内監督にツキを呼ぶにはどうしたらいいか聞いてみた。返ってきた答えはこうだった。
「自分が信じる戦法でいく。これしかないね」
まさに黒木監督と通じる部分だ。
石見智翠館戦の9回2死一、二塁からレフト前にサヨナラ打を放った興南・城間 【写真は共同】
初戦で代打に立ち、サードゴロエラーで出塁した二宮尚寛は、3回戦の鳥羽高(京都)戦の5回から、2試合4打数無安打の我那覇真に代えて代打で起用。四球で出塁して守備につくと、次の打席では二塁打を放つ活躍を見せている。二宮も沖縄大会では1打席にしか立っていない選手。短期間のトーナメント戦では、その間に運気のあるラッキーボーイがいる。レギュラーだけではく、地方大会では出番の少なかった2ケタ番号の選手も使う。その中で運のある選手を見定め、積極的に起用する。65歳の経験豊富なベテラン監督からは、そんな意図が見て取れた。