“間”つくる伝令、花巻東は12番に託す=漫画『クロカン』で学ぶ高校野球(6)

田尻賢誉
 ピンチの場面、マウンド上に選手たちが集まり、そこにベンチからの使者がさっそうと駆け寄る。高校野球でよく見かけるそんなシーンには、大きな意味がある。タイムをかけるタイミング、アドバイスの内容によって、その後のプレー、試合の流れは大きく変わる可能性があるからだ。監督がきっかけを与え、選手たちは考え、次の準備をして確認する。そこが勝負の分かれ目となる。
 型破りな指導をする監督・黒木竜次が主人公の高校野球漫画『クロカン』を通じて、高校野球の現実(リアル)を考える短期集中連載の第6回のテーマは、伝令だ。

『クロカン』第12巻1話「先制パンチ」より 【(C)Norifusa Mita/Cork】

『クロカン』第12巻1話「先制パンチ」より 【(C)Norifusa Mita/Cork】

考える間を与え、準備と確認をさせる

『クロカン』第12巻1話「先制パンチ」より 【(C)Norifusa Mita/Cork】

 どんなに体が大きくても、しょせんは高校生。ささいなことで冷静さを失い、精神的に崩れてしまうことは少なくない。それが甲子園という大舞台ならなおさらだ。

 そんなとき、監督が指をくわえて見ているわけにはいかない。高校野球では9イニングの間に3度までベンチから伝令を送ることが許されている(延長に入るとリセットされ、1イニングに1度認められる)。試合を止める“間”。試合展開をせかされる甲子園では、このちょっとした“間”をどう使えるかがカギになる。

 2年連続の日本一を狙う豊将学園との試合で、クロカンこと黒木竜次監督は思い切った采配を見せた。初回、絶対的エースの坂本拓也が先頭打者にフェンス直撃の長打を打たれると、エラーも絡んで先制点を与えてしまう。ここで1回目の伝令を送った。

 さらに2番打者にも二塁打を打たれると「ここで叩かれたら勝負にならねえ。とにかく止めなくては……」と2回目の伝令。3番打者にも長打を浴びて2点目を失ったところで「動揺が全員に走ってる!」と3回目の伝令を送った。

 多くの監督は終盤のピンチに備え、タイムを残してしまうものだが、初回から惜しげもなく3回のタイムを使い切った。力は相手が上。ぼやぼやしていては初回で勝負が決まってしまう。結果的にこの後も失点して伝令は功を奏さなかったが、この采配を敵将の徳武弘道監督は「大事な場面で迷わない男や」と評価した。

 クロカンが「確認!」で頭の中を整理させるように、高校生はいざというとき、次に何をするべきかを分かっていないことが多い。まして、想定外のことが起きればなおさら。そうならないために、考える“間”を与え、準備と確認をさせる。これが伝令を出す最も重要な意味だ。

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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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