“間”つくる伝令、花巻東は12番に託す=漫画『クロカン』で学ぶ高校野球(6)

田尻賢誉

監督の仕事はどれだけ選択肢を絞れるか

勝負をを左右する緊迫した場面、伝令が果たす役割は大きい。写真は13年夏の甲子園での花巻東ナイン 【写真は共同】

 甲子園で伝令を有効に使う監督といえば今治西高(愛媛)の大野康哉監督。守備時だけではなく、攻撃時のタイムも3回使い切る。甲子園でもそんな監督は珍しい。大野監督のポリシーは、“事が起こる前にアドバイスをする”ということだ。大野監督は言う。

「結果が出た後にどんないいアドバイスをしても何の役にも立たない。それだったら、プレーをする前にアドバイス、指示をしてあげるべき。他のスポーツでは難しいですけど、それができるのが野球ですから。監督にはアドバイスのチャンスが与えられている。言ってみれば、監督と選手の間だけの秘密のアドバイスです」

 高校生より経験も知識もある。プレーをしている選手たちより、客観的に状況を見つめることもできる。冷静で的確な判断をしやすいのが監督という立場なのだ。選手の迷いをなくし、想定外をなくす。そのためのアドバイスを伝令で送る。

「悔いが残るというのは、やらなければいけないことをやらないことだと思います。監督も『ああいうふうに言っていればよかった』と悔いは残さないようにしないといけない。タイムを使い切るということは、悔いはないということ。その代わり、反省はありますけどね。自分が言ったことが間違っていれば、それは選手に謝るしかない。でも、アドバイスするのをためらって、言わずに出た結果について言ってしまうのは、それは評論家であって監督ではないと思います」

 いろんな選択肢がある中で、どれだけそれを絞れるか。選択肢を絞れれば絞れるほど、選手たちはやることが明確になる。いかに迷いをなくしてやるか。それが監督の仕事なのだ。

何を伝えるかだけでなく、誰が行くかも重要

 伝令の“間”にプラスアルファを加えて使っているのが、花巻東高(岩手)の佐々木洋監督だ。今夏の甲子園大会、花巻東では背番号12の多々野航太が伝令役として決まっているのだが、これには理由がある。

「伝令は誰が行くかが大事だと思います。運気がある子がいいですよね。多々野のことは、『甲子園の申し子』と言っています」

 多々野には兄が2人おり、元太がいた2009年、将太がいた13年と2人の兄が在籍したときはともに甲子園でベスト4に進出している。花巻東にとって、多々野家の選手がいるのは縁起がいいのだ。これは、多々野本人も自覚している。

「チームメイトからは『持ってる』と言われます。なぜか分かりませんが、僕が行くと場が和らぐんです。運がいい方かですか? おみくじを引くと大吉が多いですね(笑)」

 基本的に伝令はピンチで出て行くことが多い。緊迫した空気の中、緊張した状態でプレーしてしまうといい結果は出ない。いるだけで笑いが起き、場を和ませるようなキャラクターを持つ選手が行くことによって、緊張感を和らげることができる。

 伝令では何を伝えるかだけが重要ではない。誰が行くかも重要なのだ。

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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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