想いよ届け!ベンチ力が奇跡を起こす=漫画『クロカン』で学ぶ高校野球(5)

田尻賢誉
 ベンチからグラウンドに声援を送る。ごく当たり前のことも、高校野球では大きな意味を持つ。大きな声を張り上げることは、つまり“想い”を届けること。自分のエネルギーをプレーしている仲間に届ける。ベンチだけではない。スタンドの部員たちも必死に叫ぶ。その想いが通じたとき、初めて奇跡は起こる。ベンチの力は不可能を可能にする原動力となる。
 型破りな指導をする監督・黒木竜次が主人公の高校野球漫画『クロカン』を通じて、高校野球の現実(リアル)を考える短期集中連載の第5回のテーマは、ベンチワークだ。

『クロカン』第13巻4話「渦巻く風」より 【(C)Norifusa Mita/Cork】

『クロカン』第13巻6話「俺たちの風」より 【(C)Norifusa Mita/Cork】

ベンチからの声援で“想い”を届ける

『クロカン』第13巻6話「俺たちの風」より 【(C)Norifusa Mita/Cork】

 エースで4番の坂本拓也のワンマンチーム。

 そんなイメージのある鷲ノ森高校だが、決して坂本一人の力で勝っているわけではない。坂本がいなければ、ただの田舎チーム。個々の能力で勝負できない分、チームの一体感が必要になってくる。チーム全員が同じ方向を向くことによって生まれる雰囲気。全員の想いがひとつになったとき、チームには見えない力が生まれる。

 その雰囲気を生むため、クロカンこと黒木竜次監督が求めるのがベンチ内にいる選手たちからグラウンドへの声援。“想い”を届けることだ。

 甲子園の準々決勝・豊将学園戦。2年連続の優勝を狙う強豪に9回裏2死、4対6と追い込まれた場面で、黒木監督はベンチの選手たちにこう声をかけた。

「さあいくぞ! 全員で八角を後押ししろ!」

大きなジェスチャーでグラウンドに風を送る

 あと一人で試合終了だが、二塁と三塁には走者がいる。同点のチャンスだ。この言葉で鷲ノ森ナインは全力で声を絞った。もちろん、監督自らも大声を張り上げる。

「強引でいいっ! 思い切りひっぱたけえ!」

「さあ、いけえっ! 八角!」

 八角の詰まった打球はフラフラとライトの前へ。選手全員の想いが通じたのか、打球はライトの前に落ちる同点のポテンヒットとなった。

 この後、なおも2死一塁と攻撃が続く。ところが、代打の福松は緊張から体が動かず、あっという間に2ストライクに追い込まれてしまった。ここで再び黒木監督がベンチに声をかける。

「みんな、風を送れ!」

 ナイン全員が大きなジェスチャーでグラウンドに風を送る。すると、4球目。福松の打球は右中間へ。ライトが落下点に入ったかと思われた打球は、風に流されライトの頭上を破った。選手全員の想いが打球をひと押しし、奇跡のサヨナラ勝ちを収めた。

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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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