大迫傑、見えない重圧破り日本記録樹立
シドニー五輪以来の決勝目指し、北京へ

鮮やかなレース運びで日本記録を更新

日本選手権では2位に終わった大迫。ベストでない中で戦えたことが自信となり、7月には日本記録を更新した
日本選手権では2位に終わった大迫。ベストでない中で戦えたことが自信となり、7月には日本記録を更新した【Getty Images】

 鮮やかなレース運びだった。


 7月18日にベルギーのヒュースデンゾルダーで行われた「ナイト・オブ・アスレチックス」の5000メートルで大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)は、前半から集団の中でいい位置取りをし、後半の勝負どころではスルスルと集団の前に上がり、チャンスをうかがった。ブレがない上体と、ダイナミックなフォームで、アフリカ勢に果敢に食らいついた。ラスト200メートルからのスパート合戦で遅れをとったが、堂々とした走りで13分8秒40の日本新記録で6位。目標にしていた世界選手権(8月、中国・北京)の参加標準記録13分23秒00を軽々と突破し、8月4日に発表された日本代表追加選手に選ばれた。


 日本記録更新の予感はあった。


 レースの1週間前、スイスのローザンヌで大迫のコーチ、ピート・ジュリアン氏に会った際、笑顔で「スグルはとてもいい練習ができているよ」と話しかけられた。普段は難しい表情をしていることも多いジュリアン氏の対応に少々驚いていると、「日本選手権(6月、新潟)はベストコンディションではない中でも走れたから自信がついたんだと思う。今からは上がるだけ。ベルギーではびっくりするタイムが出ると思うよ。楽しみにしていてね」と親指を立てながら、笑顔で立ち去っていった。


 チームメートのマット・セントロウィッツ(米国/世界陸上モスクワ大会男子1500メートル銀メダリスト)やシャノン・ローバリー(米国/女子1500メートル米国記録保持者)も「スグルは調子いいよ!」と口をそろえていた。スイスのサンモリッツで充実した練習ができている様子だった。

デビュー戦は豪雨のため中止になる不運

 ここまでの道のりは山あり谷ありだった。2月に室内レースの3200メートル、5000メートルで日本新を樹立し、幸先のいいスタートを切ったものの、大迫は「今までこの時期に室内を走ったことがないので、屋外へうまく移行できるかどうか不安もあります」と不安も口にしていた。


 しかし屋外シーズンに入ってからもケガなく、練習は順調に進んでいた。チームにも溶け込み、セントロウィッツとはくだらないことで笑いこけるほど仲良くなった。世界選手権へすべてが順調に進んでいるように見えた。


 雲行きが怪しくなったのは5月半ばのこと。大迫陣営はまず5000メートルで世界選手権の参加標準記録を突破し、5月下旬のダイヤモンドリーグ、プレフォンテイン・クラシック(以下、プレフォンテイン)で1万メートルを走る予定を立てた。


 例年は5月上旬に行われるカージナル招待で1万メートルを走っていたが、今季は大迫だけではなく、チーム全体として少し練習スケジュールが遅れていたことから、無理をせず5月下旬に持ち越されることになった。


 オレゴン・プロジェクトの一員として新しいユニホームを着てのデビュー戦は5月15日の「Hoka One One(ホカワンワン)中距離クラシック」の5000メートル。中長距離の多くの選手が標準記録突破を目指して参加するレースが、大迫も屋外初戦になる予定だった。大迫も「初戦なので緊張はしています」と言っていたが、いい練習が積めていたことから、標準記録突破の可能性は高いように思われた。しかし雷を伴った豪雨により、レース直前に中止になる不運に見舞われる。

日本選手権前に再び調子が上向きに

 気を取り直して出場したのが、5月29日に行われたプレフォンテインの1万メートル。先頭集団が27分を切るハイペースで飛ばし、1000メートル過ぎで早くも集団は2つに。大迫はチームメートのキャメロン・レビンズ(カナダ)と後方集団につけた。レビンズが後半徐々にペースアップをし、27分7秒51の大幅自己ベストを出した一方、大迫は「後半、うまく流れに乗れなかった」と言うように、27分45秒24で参加標準記録(27分45秒00)にわずか0秒24及ばない、悔しいレースに終わった。


 そのショックは大きかった。


 その後、再び米国ユタ州パークシティで高地練習を行い、2週間後にオレゴン州ポートランドで行われた記録会で5000メートルの標準記録突破を狙ったが、人生初の途中棄権を経験する。


 ジュリアンコーチは、「1万メートルの疲れが取れていないのに走った影響だった。スグルは心身共に疲れていたと思う」と振り返る。


 レース後、大迫は日本に戻り、日本選手権に備えた。日本に戻ってから練習に少し変化を加えたことで心身ともに調子が上がり、戦える状態でレースに臨むことができたと言う。

及川彩子

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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