MLB球宴ファン投票で異変のワケ デジタル化進む米球界、その恩恵と弊害
SNSで悪ノリ「Nerd(オタク)をMLBの顔に!」
「球界の顔」を決めるファン投票企画で多くの票を集めたアスレチックスのソガード。悪乗りがSNSで拡散され、一気に広まった 【Getty Images】
MLBが運営するケーブルテレビ局「MLBネットワーク」は毎年、ツイッター上でのファン投票で「Face of MLB(球界の顔)」なる選手を決める企画を実施している。各球団から出そろった候補選手たちがトーナメント方式で、一定期間中により多くの票を集めた選手が次のラウンドに勝ち上がっていくというものだ。
昨年、この企画で今をときめくスター選手たちが凌ぎを削る中、誰もが予想外の大健闘を見せたのがオークランド・アスレチックスの控え選手、エリック・ソガードだった。
今年でメジャー6年目のソガードは、29日時点で通算7本塁打、打率2割3分9厘。お世辞にもスター選手とは言えない。しかしどういうわけか、ソガードはこの人気投票でバスター・ポージー(サンフランシスコ・ジャイアンツ)やホセ・バティスタ(トロント・ブルージェイズ)といった他球団のスター選手たちを次々破り、ついには決勝戦に進出してしまったのである。
ソガードは、メジャーでは珍しくメガネをかけてプレーする「Nerd(オタク)風の選手」として知られている。そこでアスレチックスの選手たちが“悪ノリ”で「ソガードに投票しよう!」「Nerd(オタク)をMLBの顔に!」とツイッターで大々的に呼びかけたところ、それにファンが次々と便乗。キャンペーンは爆発的に広がり、ソガードを決勝戦まで送り込んでしまったのだ。
ソーシャルメディアではその特性上、組織票が一気に拡大しやすい。もしかしたらロイヤルズが“一人勝ち”している背景にも、何者かによる優れたオンライン・キャンペーンによる大規模な組織票があるのかもしれない。
スマホで意見表明できる反面……
他球団の選手からは「くだらない」「ばかげている」と批判的な声が上がっており、何よりロイヤルズの選手たちからも「本当に自分で良いのか」と戸惑いの声が聞かれる。ファンにとっても、年に一度のオールスターで「ほぼロイヤルズ」というチームの試合を見たいという人は、おそらくほとんどいないだろう。
MLBのオールスターゲームは、単なる余興ではない。同年に行われるワールドシリーズのホームアドバンテージを懸けて、リーグ最高の選手たちが真剣勝負を行う場であり、だからこそ毎年チケットにプレミア値がつく。たとえファン投票の結果とはいえ、オールスターにふさわしくない選手が出場することで、これまで築き上げてきたブランドを損なってしまっては本末転倒だ。
オンライン投票やソーシャルメディアの普及により、ファンはスマートフォンひとつで自分の意見を表明し、球界に反映できるようになった。しかし、ルールの抜け穴をついた不正票や過度な組織票など、その弊害も生まれている。今回の異常事態を受けて、一部のメディアからは「来年からはファン投票と選手間投票を半々にするべき」など、ファンの関与度を薄める提案も出ている。球界を取り巻く環境がどんどんデジタル化する中、リーグ運営に「ファンの声」をどこまでダイレクトに反映させるべきか、今後も試行錯誤が続くだろう。