「里崎2世」は求めていない―― 田村と吉田、若き2人が争う正捕手の座
名捕手・伊東監督が育てる2人の若手捕手
5月9日以降、スタメンマスクをかぶる機会が増えている高卒3年目の田村 【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】
伊東監督は2012年秋の就任以来、長く正捕手としてチームを支えてきた里崎智也に続く捕手を育成してきた。
その里崎が昨年限りで現役を引退。今季は2人の若手捕手がレギュラーの座を争っている。
プロ3年目の田村龍弘と、2年目の吉田裕太だ。2人のここまでの成績を比較してみよう。
12年のドラフト3位で光星学院高(現・八戸学院光星高)から入団した田村は、51試合に出場。打撃成績は打率2割2分6厘、1本塁打、14打点を記録。守備では失策3、捕逸1、盗塁阻止率3割8分9厘という成績を残している。スタメンマスクを被った45試合での先発投手の防御率は4.28で、先発投手にQS(6回以上投げて自責点3点以内に抑えること)を達成させた試合は45試合中22試合(48.9%)だ。
13年のドラフト2位で立正大から入団した吉田は、36試合に出場。打率2割4分2厘、1本塁打、9打点をマーク。守備では失策3、捕逸2、盗塁阻止率2割3分5厘。スタメンマスクを被った20試合での先発投手の防御率は5.11で、先発投手にQSを達成させた試合は20試合中9試合(45%)だ。
4月末までは、田村と吉田を併用する形が続いていた。だが、5月9日の埼玉西武戦以降は田村が先発マスクを被る機会が増えている。この理由を、吉鶴憲治バッテリーコーチはこう説明する。
「4月までは投手との相性を見ながら交互に起用する形をとっていたのですが、5月に入って、吉田が試合に入り込みすぎて、周りが見えていないことがありました。そこで、一度ベンチから試合を見させよう、と。吉田は真面目すぎる部分があるので、自分の固定観念にとらわれるのではなく、他の捕手の配球を見ることでリード面でのバリエーションを広げていこうという考えです」
例えば、吉田は控えに回った日の試合中はベンチで吉鶴コーチの隣に座り、スコアや配球チャートをつけながら学んでいるという。
2人の良いところを前面に
守護神の西野(右)とハイタッチする吉田。スタメンから外れても吉鶴コーチとともに試合を見守ることで途中からの出番に備えている 【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】
「それを怠ったらすぐに2軍へ落とすぞ、と言っているんです」と吉鶴コーチは言う。
控えに回ることが多い吉田は、心中を明かした。
「悔しいですけど、試合に入ってしまえば、試合の終盤に出番が来ると思ってしっかりやらないといけないので」
どちらがスタメンで出ても、試合の終盤に代打を出されることが多い。そうなると、控えに回っていた方が代わって試合に出ることになる。そこで、配球チャートをつけながら試合を見ていることが役に立つ。
「8、9回の一番難しい場面での守りから試合に出ることが多い。そのとき、この打者の1打席目、2打席目はどう攻めていたか、配球チャートをつけていればより明確になりますからね。そこで試合が決まるわけですから、集中してやっています」(吉田)
「どちらかを正捕手として固定する方がいい」と、伊東監督も吉鶴コーチも考えてはいる。だが、今のところはあえて固定せず、田村と吉田が刺激し合うことで2人の成長を促している。
「2人ともまだ伸びる部分がたくさんあるので、教育しながらやっていきたい。今の私の一番の仕事はこの2人を一人前に育てることですね」と吉鶴コーチは言う。
正捕手として、里崎の存在は確かに大きかった。だが、2人には「里崎2世」となることを求めているわけではない。
「里崎の後を継ぐということは、あまり考えるなと言っているんですよ。田村は田村の、吉田は吉田の良いところを前面に出していけばいいと思っています」(吉鶴コーチ)