ネイマールとチアゴ・シウバの明暗 W杯後に立場が激変した新旧キャプテン

沢田啓明

W杯時のレギュラーは2人のみ

ドゥンガが指揮を執るようになって以降、セレソンは10戦全勝と上昇気流に乗っている 【写真:ロイター/アフロ】

 W杯後、ドゥンガ監督はGK、CB、両サイドバック(SB)、ボランチ、MF、センターFWの7つのポジションのレギュラーを入れ替えた。さらに、今回のコパ・アメリカではアンカーのルイス・グスタヴォ(ヴォルフルブルク)とMFオスカール(チェルシー)が故障で欠場しており、昨年のW杯時のレギュラーで残っているのはネイマールとCBダビド・ルイス(パリ・サンジェルマン)の二人だけ。

 戦術面でも、大きく変わった。FWとMFの守備意識を劇的に高めて守備陣の負担を軽減すると同時に、アンカー(今回のコパ・アメリカではフェルナジーニョ=マンチェスター・シティ)と2CB(ミランダとダビド・ルイス)で中央を固め、ダニーロ(ポルト)とフィリペ・ルイス(チェルシー)の両SBには守備優先を厳命して、W杯で崩壊した守備を立て直しつつある(編注:日本時間11日、ダニーロの負傷離脱が発表され、代わりにバルセロナのダニエウ・アウベスが追加招集された)。

 攻撃は、ネイマール、ウィリアン(チェルシー)らのスピードを生かしたカウンターが最大の武器だが、相手に深い位置で強固な守備ブロックを形成された場合でも崩し切れるよう、少ないタッチで高速パスをつなぐべく連携に磨きをかけている。

 このような選手起用と戦術の変更が実を結び、W杯後は宿敵アルゼンチンに快勝し、苦手フランスも敵地で倒すなど10戦全勝(6月11日現在)。チームは上昇気流に乗りつつある。

試練の場となるコパ・アメリカ

キャプテンとして臨む初めての国際大会となるコパ・アメリカは、ネイマールにとってさらなる成長を促す絶好の機会となりえる 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 ただし、セレソンにとってコパ・アメリカはある意味でW杯以上に難しい大会だ。南米各国はセレソンの長所と短所を熟知しており、徹底的に強みを消し、弱点を突いてくるはず。しかも仮に優勝を逃せば、メディアと国民は昨年のW杯の忌まわしい記憶をよみがえらせ、再び厳しく批判するに違いない。

 この大会の結果とプレー内容は、今年10月に始まる2018年W杯の南米予選に大きな影響を与えるのはもちろんのこと、フットボール王国再建を目指すブラジルにとって極めて重要な意味を持つはずだ。

 ネイマールにとって、この大会はキャプテンとして迎える初の公式大会となる。攻撃の大黒柱としての役割を果たすと同時に、強いリーダーシップを発揮することが求められる。チームが困難な状況に置かれたとき、チームメートを叱咤激励して最高のプレーを導き出し、自らもチームに勝利をもたらすような決定的なプレーができるかどうか。試練の場であると同時に、さらなる成長のための絶好の機会ともなりえるだろう。

 一方、チアゴ・シウバは、当面、ミランダとダビド・ルイスのバックアッパーという立場にある。この状況で、チームの最大利益のためにエゴを捨てて行動できるかどうか、チームリーダーの一人として、キャプテンのネイマールをサポートできるかどうか。また、出場機会が巡ってきたときにレギュラーと同レベルかそれ以上のプレーを見せてチームに貢献できるかどうか。若手のマルキーニョス(パリ・サンジェルマン)が着実に成長しているだけに、仮にこの大会でドゥンガの期待に応えることができなければ、セレソンにおける序列がさらに下降する可能性もある。しかし、本人はキャプテン復帰はともかく、「必ずレギュラーを奪還する」という強い気持ちでこの大会に臨むはずだ。

 この大会のセレソンの成績、試合内容と同時に、新旧キャプテンのプレー内容と言動にも注目したい。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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