迷いが消え、調子を上げた香川真司の1年 ドイツ杯決勝で敗れるも現地では高評価

中野吉之伴

「ユルゲン・クロップに有終の美を」

香川は先発したもののドイツカップ決勝で敗戦。クロップ監督のドルトムント最終戦を勝利で飾ることはできなかった 【Bongarts/Getty Images】

 ドイツカップ決勝を前に「ユルゲン・クロップに有終の美を」という雰囲気がドイツ中にあふれていた。7年間、ドルトムントで指揮を執ってきたクロップのファイナルゲーム。歯に衣着せぬ発言と自分でも歯止めの効かない情熱の塊は、ドルトムントファンだけではなく、多くのドイツサッカーファンに愛されていた。爆発的なスピードとエネルギーで相手に遅いかかるハイテンポなサッカーは、間違いなく一つの時代を築きあげた。前日記者会見でクロップは「(決勝が行われる)ベルリンに来るのはいいものだが、それだけではスリリングではない。ここで何かを勝ち取る方が間違いなく素晴らしい」とコメントし、最後にもう一度選手、スタッフ、そしてファンと優勝の喜びを分かち合いたいと願った。

 そしてドルトムントファンがドイツカップ決勝で思い出すのが2012年5月12日、バイエルン・ミュンヘンを5−2で下した伝説の一戦だ。先制ゴールを挙げた香川真司は3得点のロベルト・レバンドフスキ(現バイエルン)と並び、ピッチ上で最も活躍した選手であり、香川にとってはベストゲームの一つ。「クロップの申し子」と言っても過言ではないほど深い師弟関係で結ばれた。クロップがいなければ今の香川はなかったし、香川がいなければクロップはドルトムントに一時代をもたらすことができなかったかもしれない。

 シーズン中にはインタビューで「すごく感謝している。僕をブンデスリーガへと導いてくれた。初めから信頼を感じていたし、最初の2年間を楽しむことができた。それにマンチェスター・ユナイテッドから大きなエネルギーで僕を取り戻してくれた。クロップにはもちろんふさわしいお別れで送り出したい」と語っていただけに、並々ならぬ気合が入っていたに違いない。

タイトルを手にしたのはヴォルフスブルク

優勝したヴォルフスブルク。1月に事故で亡くなったマランダに勝利を捧げた 【Bongarts/Getty Images】

 しかしスポーツではシナリオを思い描けても、つくり上げることは簡単なことではない。どれだけ当事者が願っても、ストーリーは独りでに出来上がるものではない。勝ちたいのはドルトムントだけではないのだ。対するヴォルフスブルク監督のディーター・ヘッキングも「ベルリンに来たのならば私も勝ち取りたい。チームを信頼しているし、決勝で爆発してくれるはずだ」と自身初となるビッグタイトル獲得へ意欲を露わにしていた。彼らにも勝つための理由が存在していた。リーグで2位になったという自負も、自信もある。そして今年1月20日の事故で他界していたジュニオール・マランダに優勝を捧げたいという思いが。

 こうして決勝は序盤からお互いの気持ちがぶつかり合った好ゲームになった。引いて様子を見るのではなく、どちらも前から積極的なプレスを掛け合い、素早い攻守の切り替えとゴールへ向かう姿勢が見られた。ドルトムントが香川真司の素晴らしいクロスからピエール・エメリク・オーバメヤンのダイレクトボレーで先制に成功するが、ヴォルフスブルクもFKから同点に追いつく。ナウドの強烈なシュートをGKミチェル・ランゲラクが弾いたところをルイス・グスタボがしっかりと流し込んだ。さらにヴォルフスブルクはケビン・デ・ブライネの見事なミドルシュート、そしてバス・ドストのヘディングシュートで一気に試合をひっくり返す。ドルトムントにも得点のチャンスはあったが、シュートミスなど最後の詰めが甘く決めきれない。結局ゲームをコントロールしたヴォルフスブルクが3−1で勝利。09年のリーグ優勝以来となるタイトルを手にした。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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