ACLで7勝、柏はなぜ韓国勢に強いのか ベスト8進出も喜べないJでの悔しい現実

大島和人

Kリーグ王者と2位チームを連破

小林のゴールでベスト8進出を決めた柏。ACLで7勝を挙げており、韓国勢を苦にしていない 【Getty Images】

 2戦合計スコアは4−4。第1戦で3ゴールを挙げた柏レイソルが、アウェーゴール・ルールの恩恵を受けて水原三星ブルーウイングスを退け、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のベスト8に進んだ。昨季のKリーグクラシック王者・全北現代モータース(グループリーグで対戦)、2位・水原をいずれも上回った末での勝ち上がりだ。

 われわれ以上に韓国のサッカー関係者が気にしているテーマかもしれない。柏はなぜ韓国勢に強いのか――。柏が韓国と対戦するたび、韓国のメディアは同じような質問を吉田達磨監督にぶつけている。私も同様の質問を、韓国のウェブメディア、スポーツ紙の記者から受けた。

 自慢げに語って、韓国の奮起を引き出すのは得策でない。柏の若き指揮官は自らの強さを決して強調せず、韓国勢の短所を腐すこともしない。「特に秘訣はない」「たまたまのもの」といった感じでいつも素っ気なく答えを返し、記者の“プレス”をいなしている。加えて第2戦の結果(1−2で敗戦)を見れば分かるように、差が絶対的なモノということはないだろう。しかし、アジア最強クラブを決めるこの大会における柏と韓国勢の通算成績は、昨日の敗戦を含めても7勝2分け2敗。さすがにこれだけの結果が積み重なると、「たまたま」ではもう片づけられない。

 日本最大のクラブである浦和レッズ、三冠王者・ガンバ大阪に比べれば、柏は地味な存在だ。今季のリーグ戦も消化試合が2つ少ないとはいえ、第13節を終えた時点の暫定順位が18チーム中14位に止まっている。そんなチームが2013年のACLでは日本勢最高となるベスト4に進み、今大会もベスト8進出を決めた。ACLの通算成績を見れば韓国勢は過去10大会で優勝4回、準優勝2回とJリーグ勢より“格上”だ。しかし柏はその難敵を苦にしない。

 日本国内では「攻撃的」「ポゼションサッカー」と評されることの多い柏だが、韓国からはむしろその対極にあるスタイルと見なされているようだ。私が耳にした、目にした評価も「球際が強い」「守備的」「派手さはないがカウンターがいい」といったものだった。

韓国勢に有効なプレスを逆手にとるプレー

生命線であるパスワークを生かし、プレスを逆手に取るプレーを見せた柏 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 柏はネルシーニョ監督の下、12年、13年のACLを戦っているが、当時は“球際のバトルで退かない”姿勢を前面に出していた。個と個の戦いで五分以上の状況に持ち込んだ上で、相手の攻めを凌ぎ、バランスを崩したところを仕留める――。そういう柏の“ベース”は吉田監督がネルシーニョ監督から引き継いだ部分で、今季の戦いにも生かされているだろう。また圧倒的なスピード、パワーを持つクリスティアーノが押し切る速攻は柏の強みで、韓国側の評価が完全に的外れというわけでもない。

 柏の韓国人プレイヤー、右サイドバック(SB)のキム・チャンスに“柏が韓国に強い理由”を尋ねてみた。彼は「自分もなぜかと聞かれるとよく分からないんですけど……」と慎重に語り始めたが、彼もやはり“球際バトル”を好成績の一因に挙げる。

「(柏は)韓国のチームが相手でも怯むことはないし、競り合いでも負けないように強く当たることを意識している。水原の選手たちの話を聞いても、浦和レッズと対戦したときは強く行けば強く来なかったと言っていた。でも柏はそういった部分でも負けない強さを持っている」

 鈴木大輔、エドゥアルドの両センターバックは力負けをするタイプではない。左SBの輪湖直樹も小柄だが、むしろ“パワー系”の勝負で強みを発揮するタイプ。もちろん位置取りや予測のミスから失点することはあるし、距離感のムラや前後の間延びが生じればチームは苦しくなる。ただ少なくとも“球際”が敗因にはなっていない。

 今季に限って言えば、精密なパスワークが柏の強みだ。韓国勢は総じてプレス、球際が強く、ボールをアグレッシブに奪いに来る。しかし“ファーストアタック”を外せば、柏のチャンスが広がる。強い動きをすれば必然的に動き直しが遅くなり、スペースも空きやすい。

 2人、3人のユニットでテンポよくボールを動かし、相手を食いつがせて剥がすパスワークが柏の生命線だ。それが機能すれば、相手が踏み込めば踏み込むほど、むしろおいしい状況が生まれることになる。相手の勢い、前進を逆手に取り、ボールの“矢印”を変える。少ないタッチでボールを下げたり、横に開いたりというパスの角度をつけることで、柏のリズムは生まれる。このようにプレスを逆手に取るプレーが、韓国勢には有効だ。

 キャプテンの大谷はこう分析する。
「(韓国勢の守備は)組織的にやろうとしていても、ボールサイドは人が出て食いついてくる。局面の強さは間違いなくACLの方が強いけれど、そこさえ剥がせれば、本当にスペースはある。次にどのスペースが空くのかという予測を立てていれば、そんなに苦労することはない」

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著者プロフィール

1976年生まれ。生まれが横浜で育ちは埼玉。現在は東京都(神奈川県に非ず)町田市に在住している。サッカーは親にやらされたが好きになれず、Jリーグ開幕後に観戦者として魅力へ目覚めた。学生時代は渋谷の某放送局で海外スポーツのリサーチを担当し、留年するほどのめり込む。卒業後は堅気転向を志して某外資系損保などに勤務するも足を洗いきれず、2010年より球技ライターとしてメジャー活動を開始。

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