ボルシアMGにあるはっきりとした哲学 歴史あるクラブがCL出場を決めた背景

ファブルが導いた“初”のCL

2010−11シーズンに監督へ就任し、クラブを右肩上がりで成長させてきたファブル 【写真:ロイター/アフロ】

 近年の歴史において、最も大事な時期になったのが10−11シーズンだった。ルシアン・ファブルが預かった時、チームは最下位におり、希望などまったく存在しなかった。だが、この指揮官の招へいこそが、エバールSDが手掛けた最高の補強だった。

 降格圏からの完全な脱出はならなかったものの、スイスからやって来たサッカーの教師は、ボルシアMGを2部3位チームとの入れ替え戦に出場する16位まで引き上げた。そして、この反撃が呼び起こした精神面への影響は、ボーフム相手のプレーオフ(2戦合計2−1)まで続いた。こうしてブンデスリーガにかじりついたクラブは、壮大な逆襲劇という新章を記し始めたのだった。

 ボルシアMGは今シーズン終盤もプレーオフ圏内にいた。プレーオフ圏内とは言っても、彼らがいた場所は順位表の反対側で来季のCLプレーオフ圏内だ。来季のCL予選に臨むことになる4位の可能性を残していたクラブは先週末、ブレーメンに2−0と勝利したことで3位以上でシーズンを終えることを確定させた。それは同時に、かの有名なCLのアンセムがボルシアのスタジアムに響き渡ることを約束した。あの歌声が、古き良き時代の思い出を呼び覚ましてくれることだろう。

 監督のファブルとエバールSDは、しっかりとした視座から着実にチームを作ってきており、そのチームは周囲をも魅了した。確かに、ロマン・ノイシュテッターはシャルケへと旅立った。マルコ・ロイスはドルトムントへと帰ったし、ダンテはバイエルンの一員となった。だがボルシアMGは、クラブのコンセプトに合う新たな若手を発掘した。

 ファブルは自身のチームにスピーディーなサッカーを要求する。戦術的な鍵は、攻守の切り替えだ。ボールを持ったら、速く攻める。彼が築いたチームは、ブンデスリーガでも強い印象を放った。こうしてファブルは、ついにボルシアMGを“初”のCL出場へと導いた。37年ぶりの出場とも言えるが、当時の大会はヨーロピアン・チャンピオン・クラブズ・カップと呼ばれていた(編注:12−13シーズンも出場権を獲得していたが、予選のプレーオフで敗退)。奇妙な話だが、この大会で大いなる歴史を誇るクラブは、新顔と変わらぬ存在として新たな挑戦をすることになる。

「クレイジーな補強はしない」

「信じられないね」。ブンデスリーガの順位表を見てそう笑うのは、イブラヒマ・トラオレだ。彼は若きボルシアMGの成功を象徴する一人である。チームは安定した守備の上に多彩な攻撃を重ねる。特にウイングはポジション争いが激しい。ファブル監督は相手に応じてシステムを変え、さらには選手をローテーションさせる。以前所属していたシュツットガルトでは先発としてプレーしていたトラオレも、新天地でのジョーカーとしての役割を受け入れた。焦点は個人の気分ではなく、チームの勝利に据えられている。

 今シーズンを戦い抜いた後も、血を流すような痛みは続く。ドイツ代表として世界王者になったクリストフ・クラマーと、同じく代表選手のマックス・クルーゼというキープレーヤーが退団するのだ。だが、エバールSDは未来を悲観しない。根拠はある。ダンテとノイシュテッター、ロイスが移籍していった後も、チームは成長を続けてきた。クラマーとクルーゼの穴も、同等の力を備える選手たちによって埋められるだろう。CL出場とそれに伴う収入が、新陳代謝の助けとなる。このディレクターはすでに、良い補強のにおいを嗅ぎあてている。

「CLに出るからといって、クレイジーな補強はしない」と、エバールSDは今回の取材に対して答えた。チーム強化に投じる資金は2〜3000万ユーロ(約27〜41億円)とする計画だ。その資金は、CL出場による収入によってまかなわれる範囲に抑えられる。

ボルシアMGの未来は明るい

 ターゲットの一人として長らくうわさされているのが、マインツの岡崎慎司だ。加入すればクラブにとって大津祐樹以来となる2人目の日本人選手となるが、マインツはブンデスリーガのライバルへ岡崎を売却することを渋っている。

 ブレーメンのフランコ・ディ・サントの名前も挙がるが、本当の候補はケビン・フォラントだ。年代別ドイツ代表に名前を連ね続けてきたホッフェンハイムのウインガーは、クルーゼの後釜として理想的な選手だ。

 たとえ「CLレベルのチャンピオンの加入」が実現しなくとも、ボルシアMGの未来は明るい。トップグループの中に、クラブは自らの立場を確立している。クラブは財政的に健全であり、借金をすることも控えている。ボルシアMGには、はっきりとした哲学がある。

 かつての英雄ネッツァーも、興味深くこの歴史あるクラブの様子を見守り続けており、ボルシアの歩みを高く評価する。クラブが一歩ずつ落ち着いて進むという戦略を続けるなら、時につまずくことがあったとしても、その未来は明るいと考えているのだ。「ファブルは成功を築く男だ。監督としてボルシアに長く残ってくれて、この美しい物語をつづり続けてくれたなら、うれしく思うね」。レジェンドである彼も、インタビューで賛辞を惜しまなかった。

 自身のクラブがその手にタイトルをつかむ姿が、彼の目には映っているに違いない。バイエルンとヴォルフスブルクは、財政的に手の届かない存在かもしれないが、サッカーとは予測ができないものだ。それに、運命とは懸命に働く者を好むものなのだ。

 ドイツという国は、そうして築かれてきたのだから。

(翻訳:杉山孝)

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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