岡田メソッドのキーマン、吉武博文の挑戦 日本らしいサッカーの一貫指導を今治で

川端暁彦

メソッドは考え方、サッカーをどう捉えるか

メソッドはトレーニング内容ではなく、コンセプトや考え方だという。ピッチだけではなく、みんなで携わってメソッドを作り上げていく 【スポーツナビ】

――吉武さんのいるメソッド事業本部の業務が、いまひとつ分からない所があるのですが……。

 ですよね(笑)。たぶん皆さん分からないでしょう。これは簡単に言えば、一貫指導です。代表でも限界を感じていたのですが、(吉武氏が担当していた)15、16、17歳ではもう遅いんです。自分のやりたいサッカーは、やっぱりできなかった。選手が悪いという意味じゃないですよ。日本の環境ではやれていないことが多くて、できないことが多かった。ベースがないんです。年間70日前後の活動日数の中でメンバーを固定せずにやったので、一人の選手にしてみたら20〜30日くらいでしょうか。やはり12歳、13歳までにやらなきゃいけないことをできていないことが非常にたくさんあると。それを(協会のような)大きい集団じゃなくて、ミニマムな集団でやってみたいな、と。本当に日本人に合ったサッカーをしたい。悪いですけれども、メディアの皆さんも「売れるからこう書く」というのばかり。いろいろな意味でこの国ではサッカーが文化になっていない。すぐに針が振れちゃっていますよね。それは、良くないんです。

 このクラブの中で一貫指導することによって、できるかできないかを試せる。今治のスクールは10歳からあるんですけれど、どういうコンセプトで、どういうフィロソフィーで、どういうふうな働きかけで、それをどう積み重ねていけば、最終的に大人になってトップチームに行ったとき、どんな絵が描けるようになっているのか。それがメソッドです。あくまで「考え方」なんです。本当に新しい部門なので、自分も分からない、岡田さんも分からない、みんな分からない中で2月、3月、4月と3カ月経った。

 いま毎日そうやってメソッドについて考えて、作ってきているんですけれど、明確に分かってきたのは、「トレーニングの内容じゃないな」ということ。コンセプト、考え方なんです。サッカーをどう捉えるかというところがメソッド。3カ月経ってようやく見えてきました。ストライカーがいなくても、パサーがいなくても、突出した選手がいなくても、良いサッカーはできるんじゃないか。それを構築できるプログラム、考え方、一貫指導。そのメソッドを作りたいと思っています。それはもしかしたらピッチだけじゃない。メディアも含め、営業部も含め、もちろんオーナーも含めて、みんなで携わっていくことです。

――それこそサポーターも含めて?

 そう、そうですよね。応援の仕方も含めて、それもメソッドの中に入ってくるのかも……。だから、メソッドはここまでという線引きがあるわけではない。

――「これだ!」と言えるものがすでにあって、それを落としていくってわけじゃないということですね。

 そんなものがあったらラクですよね(笑)。でも、世界中のどこにもないですよ。それはまだない。でも、おぼろげながら、「こちらの方向で行けば」という確信はあるわけです。僕は日本のサッカー、日本の選手たちが力を発揮するには、“単品”じゃないと思っています。僕は一人ひとりの判断は間違っていなくとも、それが11個集まったら間違った判断になることもある。それがサッカー。だから、その考えを合わせる。一人の考えは間違っているかもしれない。でも、全体像から言えば正しい。そういうメソッドを作りたい。基本的にボールはフロントピッチ(敵陣)に置きたいと思っていますが、それも相手次第です。

サッカーは判断のスポーツ、芸術

日本人だからできるサッカーを目指して。FC今治はどのように変わっていくのか。(写真は下部組織の練習場) 【スポーツナビ】

――相手次第と言えば、吉武さんは日本人選手全体の傾向としてよく「相手がどう守っているかを見ていない」と嘆かれていました。

 それは、ありますよね。日本の文化になってしまっています。もちろん、相手だけじゃなくて味方も見ていない……。そもそも「見る」という言葉では表現できない、守っていないところを攻める感覚。それがこの今治でできていければとは思っています。

――もう一つ、吉武さんを取材していてすごく印象的だった話は、「電車が時刻通りに来る、そういう社会で育った子どもたちにどうやって戦士にするのか。それがすごく悩ましい」と。

 天気もそうですね。気温も気にしなくていい、本当に豊かで、日本は素晴らしい国というか、島、場所ですよね。ちょうど良い緯度にあってすごく良い環境です。四季折々があって、海のもの、山のものにも恵まれている。それを今まではウイークポイントだと言ってきたわけですけれど、もしかしたらストロングかもしれない。そう思ってもいます。

 サッカーは判断のスポーツ、芸術だと思っています。フィジカルスポーツじゃない。これはフィジカルが大事じゃないという意味ではないですよ。それは当然、大事です。ただ、芸術性のあるスポーツで、予測力のスポーツで、集中力のスポーツだと思います。そういうスポーツだからこそ、日本人に合っているとも思います。東日本大震災のときに何が起こったでしょうか。略奪なんて起きなかった。整然と列に並び、人々は助け合って過ごしました。世界中でそんなことが起きる国なんてそうはないですよね。そんな日本人だからできるサッカーがある。僕はそう思って、この今治でやっていこうと思っています。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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