日本が世界で勝つために必要なこと 岡田武史×近藤聡DTC社長対談 後編

宇都宮徹壱

FC今治の岡田オーナー(右)とDTC近藤社長(左)の対談後編は、「世界で戦う」というテーマについて語ってもらった 【宇都宮徹壱】

 元日本代表監督でFC今治(四国リーグ所属)のオーナーである岡田武史氏。そして、FC今治のトップパートナーとなった大手経営コンサルティング会社、デロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)代表執行役社長の近藤聡氏。お二人の対談の後編をお届けする。前編では、お二人の出会いからトップパートナー契約の締結に至った背景が明らかにされた。今回は、近藤氏がいたく共鳴したとされる岡田氏のFC今治でのプロジェクトや『岡田メソッド』の考え方、そして「世界で戦う」というテーマについても、サッカーとビジネス、それぞれの視点から語っていただいた。(取材日:4月2日)

日本企業はなぜ世界で戦えないのか?

──今日、こちらのオフィスに伺ったときに「日本のビジネスに、新しい力を。」というスローガンが掲げてありました。「新しい力を。」ということは、裏を返せば「今のままでは厳しい」ということだと思うのですが、近藤さんは日本のビジネスのどういった部分に課題があるとお考えでしょうか?

近藤 日本の名経営者というと、松下幸之助さんとか本田宗一郎さんとかソニーの盛田昭夫さんといった名前が挙がってくると思うんです。実は皆さん、創業者なんですね。夢のためならもうけは二の次で、自分のやりたくないことはやらない。それでも夢そのものが楽しいから、みんながついてくる。まあ、今の岡田さんがそうですよね(笑)。それが日本のビジネスの原動力であったと思うんです。

 では現在、日本企業がなぜ世界のトップ企業と比べて弱いのかというと、いろいろ研究して分かってきたのが社長の年齢と就任期間だと思っています。創業者の後継者というのはサラリーマン社長です。日本の場合、社長に就任する平均年齢は59歳なんですね。そうなると、たとえば3年間の中期計画があったとして2回やればそれで定年。最初と最後の1年ずつは引き継ぎに費やしてしまうと4年しか残らない。これではやりたいことができないですよ。ですから社長の年齢というものを下げて、その分10年くらいの期間を与えないと、日本企業は活性化していかないし世界で戦うのは難しいと思っています。

岡田 なるほど。平均年齢59歳だと、創業者の夢を引き継ぐことが難しいわけですね。もうすぐ定年だから、そこまで頑張らなくてもいいじゃないかと。

近藤 岡田さんもその年齢に近づいていますけれど、やっぱり創業者ですし、その夢に賛同していろんな人がついてきてくれています。でも普通の会社はそうではないですよ。創業者がやってきたことを全否定して、「俺はこういう会社にしたかったんだ」とゼロからスタートさせることなんて、まずないですよね。

──あえてJクラブに当てはめてみると、どうでしょうかね?

岡田 Jクラブの創業者って、要するに大企業からの出向で来た人がほとんどでしょう。少なくともJリーグが始まった当初は。でも最近になってようやく、下のカテゴリーのアマチュアクラブをプロクラブにしようと頑張っているような人たちが出てきました。創業者マインドに似たものを、彼らから感じられるようになりましたね。

育成は16歳までに「型」を作るのが大事

岡田オーナーは育成について、「16歳までに『型』を作ることが大事だと思う」と話す 【宇都宮徹壱】

──次に、サッカーの世界でも非常に重要な、人材育成についてお聞きしたいと思います。DTCという企業は、人を育てる社風があると聞いていますが、やはり「人が売り物」というビジネスをされているからでしょうか?

近藤 人材育成というところで言うと、モノを作っている会社は、商品を作ることと人を育てていることが対(つい)になっていると思うんです。でも、われわれの業界は人が売り物ですので、人材を育てるのは商品を作ることと同じなんですね。採用はわれわれにとっては、いわば部材の調達ですし、人材育成は商品を作りこんでいくという感覚です。サッカーもおそらくそうだと思います。つまりプレーヤーを商品として育てて、それを見に来るお客さんがお金を落としていくというサイクルのビジネスですよね。

──FC今治も、トップチームだけでなく育成にも力を入れていくということを岡田さんは強調されていましたね。

岡田 サッカーの発展というのは、基本的に選手と指導者の育成しかないわけです。代表監督を10億円で連れてきたら強くなるかといえば、そうではないわけですよ。育成は遠回りに見えるかもしれないけれど、実は一番の近道だと思いますし、そこをしっかりやらないと根本は変わらない。逆に、20歳を過ぎた選手を変えようと思っても難しいんですね。そこに僕は限界を感じていました。

 育成に関しては、やはり16歳くらいまでに「型」を作るのが大事だと思います。「型」というのは、ウチでサッカーをするんだったら「ここでボールが入ったら、こういうところを狙っていくんだ」というような共通のイメージを持たせて、そこから先は「型」を破って独自の発想でプレーしていく。「こういう場面ではウチではパスなんだけれど、あえてドリブルする」というのはOKなんです。そういう選手を、僕はFC今治で育成していきたいんですよ。

──それがまさに「岡田メソッド」の考え方ですよね。「日本サッカーの型」というものをまず作って、そこから「型」を破っていく人材を輩出していくという。

岡田 ちょっと話題が変わるかもしれないけど、去年のワールドカップ(W杯)で敗れてから「もうポゼッションサッカーの時代じゃないんだ」と言われるようになりましたよね。でもそれを否定してしまったら、日本サッカーは勝てなくなるんじゃないかと僕は思うんですよ。じゃあ、日本はポゼッションサッカーだったから勝てなかったのか。アジアカップで攻撃が遅かったから勝てなかったのか。そうじゃないと僕は思うんですよね。もちろん、いろんな考え方があるとは思いますが。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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