日本にイノベーションが求められる理由 岡田武史×近藤聡DTC社長対談 前編

宇都宮徹壱

FC今治の岡田オーナー(右)とDTCの近藤社長(左)が対談。2人の出会いからクラブと企業の経営についてなど存分に語り合った 【宇都宮徹壱】

「世界的な国内の企業と、契約の最終段階に入っている」

 2月23日に開催されたFC今治のリスタートカンファレンスにおいて、オーナーの岡田武史氏は、空白となっていた胸スポンサー企業についてこのように語っていた。それから1カ月あまり。このほど、大手経営コンサルティング会社のデロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)がFC今治のトップパートナーとなることが発表され、ユニホームの胸には「Deloitte.」という企業ロゴが入ることとなった。

 そもそも地域リーグ所属のクラブに企業ロゴが入るのは珍しいことで、入ったとしてもたいていは地元企業である。そこにいきなり東京・丸の内に立派なオフィスを構える企業がトップパートナーとして手を挙げたのだ。しかもコンサル会社はいわゆる「BtoB」企業(企業向け事業が主体の企業のこと)であり、地方サッカークラブのスポンサーをする直接的なメリットは正直なところ見当たらない。実は岡田氏は昨年、同社の特任上級顧問に就任しているが、それが直接的な理由であるとも思えない。

 果たして、DTCとFC今治とを結びつけたものは何か? そして四国リーグ(実質5部)のクラブを後押ししようとするDTCとは、どのような企業で、FC今治を通して何を実現させようとしているのか。その謎に迫るべく、DTCの代表執行役社長の近藤聡氏と岡田氏による対談を、2回にわたってお届けする。(取材日:4月2日)

ハリルホジッチの日本代表から感じたこと

──今日はよろしくお願いします。まずは最近のサッカーの話題からスタートしましょう。先月、ヴァイッド・ハリルホジッチ新監督率いる日本代表が2試合を行いました。試合を見てのお二人の感想から教えていただけますでしょうか?

岡田 近藤さん、見た? 忙しいから見ていないでしょ?
 
近藤 ゴールシーンだけ見ました(笑)。

岡田 僕は「こういうサッカーやるんだな」というのが最初に思ったこと。それと、アグレッシブさを選手に要求しながら競争意識を促しているなと。球際を厳しくとか、攻守の切り替えを素早くとか、実はそれほど特別なことはやっていない。それと、ワールドカップ(W杯)予選では引いて守るチームも多いので、そこをどう戦っていくかというのは、まだまだこれからのことかなと。ただ、若い選手たちが生き生きプレーしていたので、それはいいことだなと思いましたね。

近藤 私は監督の個性やポリシーが前面に出ているように感じましたね。あとは岡田さんもおっしゃっていましたけれど、若い選手が活躍していたのは良かったと思います。世代交代がないと、いくらいい選手をそろえていても組織として長続きはしませんから。その意味でも期待できるのかなと思いますね。

──さて今回、近藤さんが社長を務めるDTCが、FC今治のトップパートナーとなりました。その理由を明らかにする前に、お二人の出会いについてお話いただけますか?

近藤 最初にお会いしたのは2013年ですね。ある雑誌の対談企画で「誰と対談したいですか」と聞かれて、私としては経済界の人よりもスポーツ界の方のほうがいいなと。グローバルに活躍しているという点ではスポーツが分かりやすいですし、私も学生時代にサッカーをやっていましたので「岡田監督で」とお願いしました。

──2013年というと、岡田さんが中国の杭州緑城の監督をされて2年目でしたね。初めて岡田さんにお会いしたときの印象は?

近藤 非常に有名な方でしたので、最初はどうなるかと緊張していたんですけれど、とても気さくにお話をさせていただきましたね。サッカー以外の話題でも大変盛り上がって、これは絶対に対談で終わらせたくないと。ですので「我が社の顧問になってください」とお願いしたら、幸い快く引き受けていただきました。

DTCの特任上級顧問を引き受けた理由

岡田オーナーは、DTCの特任上級顧問を引き受けた経緯について「勉強したかったから」と話した 【宇都宮徹壱】

──岡田さんの近藤社長の第一印象は、どのようなものでしたか?

岡田 最初は「変わった人だなあ」と(笑)。記者の人でも、なかなか中国まで来る人は少なかったのに、こんなに大きな会社の社長さんが対談するためだけにわざわざ杭州まで来てくれるというので、正直驚いたわけです。でもいろいろ話していると、読んでいる本が一緒だったり、考え方が一緒だったり、ものすごく共感するところがありましたね。

近藤 私にとっての岡田さんは、やっぱり雲の上の人でしたね。日本代表監督として、日の丸を背負っていた人でしたから。われわれの仕事も、日本企業を中心に経営コンサルティングをやっているんですが、「日本を強くする」という意味ではつながる部分はあるということで、ぜひ一度お目にかかりたいと思っていました。それで上海から新幹線で杭州まで移動して、ようやくお会いすることができました。

岡田 実は近藤さんにお会いする前に、DTCについて自分なりに調べていたんですね。近藤さんが社長に就任してから急激に成長している会社であることが分かりました。ですので、ものすごくバリバリやっておられる方なんだろうなと思ったんです。ところが実際にお会いしてみると、田坂さん(広志=多摩大学大学院教授)の著書のファンだと聞いて驚いたんです。

 僕も田坂さんとは懇意にしているんですけど、あの人の本って世の中を広く俯瞰するような考え方をされているんですね。目の前の勝負を戦いながら、一方で自分の理想というものを掲げ続けるという二面性というのは、僕らの世界もそうだしビジネスの世界でも必要だと思っているんだけど、近藤さんもそういうところがあるんだなと。それが一番印象に残ったことでしたね。

──そして対談後には、DTCの特任上級顧問を引き受けられたと。一番の理由は何だったのでしょうか?

岡田 一言で言えば、勉強したかったんですよね。当時は企業経営するとは考えていなかったんだけど、企業向けの講演だとかお付き合いも多くなっていくなかで、じゃあ企業経営というのはどうあるべきなんだろうという疑問がずっとあったんです。ですので、どんどん成長している企業で勉強してみようという、ちょっと不純な動機で引き受けさせていただきました(笑)。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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