混沌とする柔道・最重量級代表争い 期待される「絶対的エース」の誕生
選考が難航 代表は七戸に
100キロ超級の選手選考は難航したが、七戸が代表権を得た。選考について説明する井上康生監督(右)と山下泰裕強化委員長 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
配布された用紙の100キロ超級の横に書かれていたのは、「七戸龍」の名だった。
日本代表の井上康生男子監督は、選考の理由を次のように語った。
「(七戸は)選抜体重別と今大会では敗れたものの、この1年間の国際大会を見る限り、14年は世界選手権の2位を中心に、グランプリ・ウランバートル(モンゴル)と、今年2月のグランプリ・デュッセルドルフ(ドイツ)で優勝。その結果を評価し、金メダルに一番近いという判断から七戸を選びました」
一方、優勝した原沢については、「王子谷や七戸との対戦において、非常によく研究していた試合内容でした。この優勝が大きな自信になり、彼自身、さらにレベルアップするのではないかと期待しています」と評価した上で、代表に選出されなかった理由として国際大会での実績不足を挙げている。
原沢は14年、グランプリ・デュッセルドルフやグランドスラム・チュメニで優勝を逃し、グランドスラム東京には出場もできなかった。さらに国内大会でも、11月の講道館杯は期待されていた中で1回戦で敗退し、4月の選抜体重別で王子谷に敗れたことも代表争いという意味でマイナスポイントになっていたようだ。
井上監督は「今年の選抜体重別と全日本で2連勝しなければ、代表に名前は挙がってこない」と考えていたというから、選抜体重別の優勝を逃した時点で代表争いからは後れを取っていたことになる。
「絶対的エース」の誕生に期待
山下委員長はそれについて、「選考基準はわれわれ強化委員会で決めたもの。その基準を逸脱して、(勢いを買って原沢を)選んでしまうということは、逆に大きな問題を起こすことになりかねない。もし、選考基準に問題があるようであれば、世界選手権が終わった時点で見直そうという議論で落ち着きました」と説明する。「国内ポイントシステムを導入し、それらを代表選考の参考資料とし、大会結果と内容から総合的に判断する」という選考基準では、七戸が最も金メダルに近いという結論に至ったわけだ。
とはいえ、七戸が重量級のエースの座に収まったかと言えば、それもまた違う。
「王子谷と西潟を含め、4強に期待する選手がすべて残った点は、重量級の層の厚さが出てきたのではないかなと。そして今回、代表には七戸が選ばれましたが、4人は横一線というか、微妙な差だと思います。この4人を来年(のリオデジャネイロ五輪)に向けてしっかりと競わせた上で、重量級のさらなるレベルアップを図っていきたい」(井上監督)
世界選手権の後でも、あるいは1年後の全日本選手権の後でもいい。それが誰になろうとも、「この男なら100キロ超級で必ず金メダルを獲得してくれる」と思えるような最重量級の「絶対的エース」が誕生していることを信じたい。