粟生、三浦、内山、田中ら世界戦目白押し=5月のボクシング興行見どころ

船橋真二郎

内山のV10戦はムエタイ戦士

V4を狙うWBC世界王者・三浦は元IBF世界王者ディブに“進化の証明”を見せられるか!? 【船橋真二郎】

 6日にはWBA世界スーパーフェザー級“スーパー”王者の内山高志(ワタナベ/22勝18KO1分)が大田区総合体育館で10度目の防衛戦。挑戦者で前東洋太平洋王者のジョムトーン・チューワッタナ(タイ/9勝4KO)はボクシングのキャリアこそ少ないが、ムエタイでは数々のタイトルを獲得している歴戦の強豪。内山も「自分の距離というか、空間をよく知っている。相手の長所をつぶすのがうまいと感じるし、その辺は天才的」と警戒する。過去に対日本人3戦全勝で今年1月には金子大樹(横浜光)と対戦。内山に挑戦したこともある金子との注目対決には、内山の評価どおりのたくみな試合運びで判定勝ちしている。とはいえ、ジョムトーンの評価はまだ東洋圏止まり。発表会見での「国内では注目されるかもしれないけど、海外に名前を売りたい僕としては微妙」が内山の偽らざる本音だろう。それでも25歳にして、すでに老かいさを感じさせるジョムトーンはやりづらい相手に違いない。内山は難敵をどう料理するのか。その先の海外進出、統一戦へと可能性をつなぐためにも絶対に負けられない戦いである。

 内山と同じリングでは昨年末の初挑戦を実らせたWBA世界ライトフライ級王者の田口良一(ワタナベ/21勝8KO2敗1分)が初防衛戦に臨む。判定で戴冠したときから、KOへの強い意欲を示してきた田口が迎えるのはクワンタイ・シスモーゼン(タイ/49勝26KO3敗1分)。13年9月には当時、井岡一翔が持っていた同じタイトルに挑戦し、7回KO負けしている。井岡はボディを効果的に使ったが、ボディは田口も得意とするところ。元WBA世界ミニマム級王者でもあるクワンタイを沈めることができるか。また、この日はWBO女子世界ミニマム級王者の池原シーサー久美子(フュチュール/6勝3KO1敗1分)が京都から敵地に赴き、2度目の防衛戦を行う。挑戦者の江畑佳代子(ワタナベ/7勝4KO5敗)はこれが4度目の世界挑戦となる。

長谷川穂積が無敗の強豪と再起戦

デビュー以来無傷の29連勝と勢いに乗るオラシオ・ガルシアとの再起戦に臨む長谷川穂積 【写真は共同】

 昨年4月、3年ぶりの世界戦でIBF世界スーパーバンタム級王座に挑んで7回TKO負けに散ったあと、進退を保留していた長谷川穂積(真正/33勝15KO5敗)は1月に現役続行を表明。9日、神戸市立中央体育館で再起戦に臨む。対戦相手には自ら望んで強豪を指名した。デビュー以来、無傷の29連勝(21KO)と勢いに乗る24歳、WBC世界スーパーバンタム級9位のオラシオ・ガルシア(メキシコ)である。

 34歳のベテランが再起戦で戦うには危険に過ぎると感じるが、この緊張感こそが自身を呼び覚ますと信じているようだ。若きガルシアは野心を持って、一時代を築いた名王者に挑みかかってくるだろう。可能性のすべてを使い尽くそうとするかのような長谷川の挑戦はどのような結末を迎えるのか。まずはこの一戦を見守るほかない。

 9日には現在、九州唯一のベルトホルダーであるWBC女子世界ミニフライ級王者の黒木優子(YuKoフィットネス/12勝6KO4敗1分)が大阪・豊中アクア文化ホールで2度目の防衛戦を行う。サウスポーの黒木が迎えるのは4度目の世界挑戦に懸ける秋田屋まさえ(ワイルドビート/9勝3KO5敗2分)。大阪は黒木にとってはアウェイになるが、昨年5月に2度目の挑戦を実らせた験のいい場所でもある。

 現地時間10日には米・テキサス州イダルゴで前WBO世界バンタム級王者となった亀田和毅(日本/31勝19KO)がジェイミー・マクドネル(英/25勝12KO2敗1分)のWBA世界バンタム級“レギュラー”王座に挑戦する。試合は統一戦として行われる前提で進められてきたが、WBOはマクドネルの上位にWBA世界バンタム級“統一”王者のファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)がいることから統一戦と認めず、またマクドネルには挑戦資格がないことから防衛戦としても認めなかった。試合を強行した場合はタイトル剥奪の可能性を示唆。和毅はベルトを返上し、WBA挑戦を選択した。元IBF王者でもあるマクドネルを相手に吉と出るか、凶と出るか。

田中、国内最短の世界王者を狙う

井上尚弥が持つ世界奪取の国内最短記録6戦目の更新を狙う“中部の新星”田中 【船橋真二郎】

 19歳の“中部の新星”田中恒成(畑中/4勝2KO)が30日、愛知・パークアリーナ小牧でWBO世界ミニマム級王座決定戦に臨む。昨年10月には世界主要4団体で上位にランクされていた原隆二(大橋)を東京・後楽園ホールで10回TKOに下し、国内最短記録となる4戦目で東洋太平洋王座を奪取した田中。次は井上尚弥(大橋)が持つ世界奪取の国内最短記録6戦目の更新を狙う。対戦相手はフリアン・イエドラス(メキシコ/24勝13KO1敗)。1敗を喫したカルロス・ブイトラゴ(ニカラグア)以外に名前の通った相手は見当たらず、今回が国外では初の試合になるが、陣営は「パワーもあってタフ」と気を引き締めており、4月20日からはフィリピンから2人のスパーリングパートナーを呼ぶなど、万全の体制を敷く。中部地区では10年ぶりの世界戦のリング。若きスピードスターの輝ける未来を予感させるような王座奪取劇はなるか。

 昨年末、念願の3階級制覇を成し遂げたWBC世界ライト級王者のホルヘ・リナレス(帝拳/38勝25KO3敗)が30日(日本時間31日)、英・ロンドンに乗り込み、初防衛戦に臨む。挑戦者は同級1位のケビン・ミッチェル(英/39勝29KO2敗)。舞台は2万人収容のO2アリーナ。リナレスのセンスとスピードにあふれたスタイルは盛り上がりを見せる英国の大会場でも映えるか。

 ミッチェルはこれが3度目の世界挑戦。過去2度の挑戦はいずれも試合の前半でストップ負けを喫しているが、現在は5連続KO勝利中と勢いがある。17歳のときに日本でデビューし、プロボクサーとして成長してきたリナレスも29歳。ボクシングの母国で防衛に成功すれば、そのキャリアに新たな勲章が加わる。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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