「7人制で勝負したい」吉田大樹の挑戦 ラグビー界の「いいひと」が新天地へ
自分が試合に出られなくても、できることを…
何事も率先して動き、ラグビー部以外の人々からも愛されている 【赤坂直人】
長い遠征や合宿の後は、同僚の部員同士で留守にする「技術情報システム部 情報インフラ・ドキュメント管理課」へのお土産を用意していた。そこまでは良識の範囲内での行動だったが、次第に「ヒロキさん」は、「技術情報システム部」の全員に渡すべきだと提案した。最終的には「関連会社の方」にまで「これ、みなさんで食べてください」と回っていた。
「僕がゲームキャプテンをしたころも、すごく助けられた。自分が試合に出れていない時期なのに、声を出して、チームを引っ張って。完璧すぎると敬遠されるところもあると思うんですけど、たまに抜けているところもある。だから逆に、皆から親しまれていた。大学のころも、ラグビー部以外の奴といることも多かったな……」
横の席がさびしくなった望月は、いつしか出社前に「クラブハウスのトイレ掃除」を始めていた友の言葉、動き、思いを、こう回想するのだった。
「セブンズ」で五輪を目指す
かつての恩師に声をかけられ、セブンズ日本代表に選ばれた 【赤坂直人】
「瀬川さんに呼んでいただいたころから、セブンズで勝負したいという気持ちが出てきた。そのタイミングで和歌山県から声をかけていただいて……」
15人制のワールドカップの2019年大会が日本で開かれる一方、7人制も2016年のリオデジャネイロ大会から五輪正式種目となる。競技認知度向上の追い風を受ける14年秋、若手時代にも呼ばれていた7人制日本代表にリストアップされていた。指揮官は、かつて「さっきまであっちに……」と「ヒロキさん」を褒めた瀬川だった。
和歌山県は10月の国体開催に備え、各競技の強化を図っていた。7人制ラグビーでは、NECなどで活躍した水山尚範が県庁職員を務めながらプレー。「ヒロキさん」も繊維会社のヤマヨテクスタイルに在籍し、勤務後のトレーニングに励むこととなった。もともと教員免許も持っており、県立高校の採用試験を視野に入れている。
「関西は大学のころにも住んでいましたし、和歌山の方は情が厚く……。タイミングが合ったというか、いろんな方に導かれて、いまのこの立場があります。はい」
「人のために」を「自分のために」
東京セブンズでベスト8に進出した日本代表。秋には五輪予選が行われる。 【赤坂直人】
もっとも真骨頂は、チームマンとしての姿であろう。「生活とグラウンドは、直結していると思います」。クラブハウスで元気のない仲間を見つけてはフランクに話しかけ、試合前の円陣が乱れていようものなら「ちゃんと円になろう」と言ってきた。
いい選手といい人間はイコールか。スポーツ界の永遠のテーマのひとつに、「ヒロキさん」はこう、即答するのだった。
「そう思います。特に日本人は。普段からチームのことを考えている人は、結果を出しやすい。大事なところでボールが回ってきたり、重要な場面のタックルでピンチを防いだり……。しんどいときに身体を張ります。責任感が違いますね。はい」
個性が集団になる楽しさと大変さをわかっているから、「チームになるためにはどうしたらいいかを考えるのが私の役割」と心から誓う。自己主張が必須のアスリートの群れで、「人のために何をすべきか」を「自分のため」に考える。東芝時代のトイレ掃除は「趣味です」と言い切る。
それが、吉田大樹という選手であり人間なのだ。