意味不明、4月の皐月◎ドゥラメンテ=乗峯栄一の「競馬巴投げ!第96回」

乗峯栄一

今後の期待に活躍したい

[写真3]スピリッツミノル(手前)は逃げで一発! 【写真:乗峯栄一】

 先日「プロ野球ニュース」の女性司会者が「新人選手たちの“今後の期待に活躍したい”と思います」と言った。その場のおじさん解説者たちは誰一人ツッコまないし、番組もそのまま進行する。フジTVアナウンサーなんだし、常識的なことだ、“期待”と“活躍”の順序を間違えただけだなどと勝手に解釈してしまう。「火星から来た」だと“意味不明の言動”だが、“期待に活躍したい”だと、何もおかしくない、ちょっとした言い間違いだろうと解釈する。権威の陥穽(かんせい)にハマってないか。

 この女子アナは、ひょっとしたら「新人選手が今後抱くであろう(わたしへの)期待を感知して、(わたしが)活躍したい」と、つまり新人選手ではなく、自分が活躍することを誓ったのかもしれないじゃないか。

 NHK女子アナは「台風は、強い勢力を“たまったもも”上陸の気配です」と言った。文字にすればまあどうということはないが、“溜まった桃”と聞いたからには「強い精力」を内部に溜め込み、はち切れんばかりの巨大な“精力桃”が、プシュプシュプシュと、桃のあちこちからその強い精力の一端を噴き出しながら上陸してくるイメージしか浮かんでこない。台風情報なのに卑猥なことしか考えられなくなるこちらも悪いが、これを単なる言い間違いと処理していいんだろうか。フロイトの「精神分析入門」には「錯誤行為には意味がある」という有名な言葉がある。NHK女子アナは心のどこかに“溜まった桃”を抱いていたのではないだろうか。

 武蔵丸は横綱昇進を伝える使者に「心・技・精進、体します」と口上した。ハワイ出身の武蔵丸は日本語に不慣れだからと誰も問題にしなかったが、武蔵丸自身は「心・技・体の三すくみはおかしい。心・技・精進が三すくみのはずで、それを体する(表す?)のが横綱だ」と信念を持っていたんじゃないか。そこは聞いてみなきゃ分からないじゃないか。

“生涯”未勝利戦に出る馬が入場してきました

[写真4]クラリティスカイ(中)のいちょうSの脚が忘れられない 【写真:乗峯栄一】

 グリーンチャンネル女性司会者にもドキッとした。

「第4Rの障害未勝利戦に出る馬が入場してきました」とこれは言葉として書くとごく普通だが、この女性司会者、なぜか“障害”の“ショ”にアクセントを置く。これを字で書くと「第4Rの“生涯”未勝利戦に出る馬が入場してきました」となる。もちろん単なるアクセント間違いだろう。しかしもしひょっとしたら、そしてフロイト錯誤理論によれば「この馬たちは一生涯、未勝利戦しか出られない馬なのよ」という悪魔の囁きが、この女性司会者の心のどこかにあったとも言える。競馬界へのアンチテーゼを持っていた可能性も捨てきれない。

 フジTVアナもNHKアナも武蔵丸もグリーンチャンネル・アナも「言い間違い」でサラッと流され“意味不明”として問題視はされなかった。しかしひょっとしたら、三者とも「ここで一発アンチテーゼやってやる! 常識にはとらわれねーぞ」という心に期すものがあったかもしれない。たとえば遺伝子の突然変異が新たな種を生み出すように、意味不明は社会を変える可能性を含んでいる。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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