驚くべき進化を遂げたヴォルフスブルク 資金力で王者を脅かす小クラブの野心
タイトルへの大きな渇望
ヨーロッパリーグではインテルを撃破。ヴォルフスブルクは欧州でのタイトルも視野に収めている 【写真:ロイター/アフロ】
インテル相手のヨーロッパリーグでも、ヴォルフスブルクが問題を抱えることはなかった(2戦合計、5−2で勝利)。ドルトムントと似たような危機に直面しているこの伝統あるイタリアのクラブは、フォルクスワーゲンの工場の影の中でまともに動けずにいた。次に当たるのがナポリだろうが、ヨーロッパのカップさえもヴォルフスブルクはその視野に収めている。
ヴォルフスブルクには、タイトルへの大きな渇望がある。特に、ヨーロッパ最大の自動車メーカーであり、クラブの親会社として多額を投じているフォルクスワーゲンはタイトルを欲している。フォルクスワーゲンにとって、このクラブは大事なアピールの武器である。「この会社はヴォルフスブルクのサポーターであり、成功をもたらすためには必要なことには何でもトライする」。スポーツビジネスの専門家であるアルフォンス・マデヤ教授はつい最近、ドイツ最大の経済紙『ハンデルスブラット』にそう語った。
金を投じることで、フォルクスワーゲンは成功をつかもうとしている。あまりに多額の資金が投じられるので、ブンデスリーガでも2番目に小さな街で何が起こっているのか、UEFA(欧州サッカー連盟)が目を凝らして監視している。ドイツサッカー協会も、ヴォルフスブルクに目を光らせている。多くの議論がなされてきた「ファイナンシャルフェアプレー」に違反することがないようにだ。投資とスポンサードをうまく織り交ぜ、経済的ビッグクラブはドイツで「50+1」(クラブのメンバーが決定権を持ち続けられるよう、投票権の過半数をクラブに持たせることを定めたもの)と呼ばれるルールの中で最大限の力を発揮しようとしている。
その数字を聞いていると、クラブの野心が確かに伝わってくる。ドイツの日刊紙『ヴェルト』のルツ・ヴェケナー記者は今年の初め、こんな計算をした。「2010年以降、ヴォルフスブルクは2億2350万ユーロ(約290億円)の移籍金を投じてきた。選手の売却額との差は、実に1億828万ユーロ(約140億円)。これ以上の投資をしているクラブは、他にはバイエルンしかいない」。
バイエルンとドイツのタイトルを争いたいという目標を、ヴォルフスブルクは中期的目標として抱いている。今シーズンは、バイエルンとの勝ち点差をひっくり返すことは無理だろう(第26節終了時点で勝ち点差は10)。だが、クラブの歴史を考えれば、ここまで来たことは驚くべき進歩だ。ハノーファー96とアイントラハト・ブラウンシュヴァイクという伝統的なクラブの間で常に注目を浴びようと戦い続けなければならなかった小さなクラブの、大胆な挑戦は続いている。
新たに導入されたクラブの戦略
マガト(手前)の下、09年にリーグを制覇したものの、成功は長く続かなかった 【写真:ロイター/アフロ】
そんなクラブを成功に導いたのは、かつてのドイツ代表選手である鬼軍曹だった。09年、フェリックス・マガトが、リーグ制覇へとチームを導いたのだ。そのチームには、今では日本代表のキャプテンを務めるまでになった長谷部誠もいた。「クラブはそんなプランはまったく描いていなかった」とヒーテは回顧する。チャンピオンズリーグ(CL)にも出場するなど、クラブは束の間の成功に浸った。だが、すぐにブンデスリーガの平均的なクラブに戻ってしまう。マガトの哲学では、長期にわたる成功を購入することはできなかったのだ。
継続的な成功を得るために、クラブは新たな戦略を導入した。経済的パワーである。収入を省みたりせず、投資を減らすこともない。クラウス・アロフスSDとディーター・ヘキング監督のコンビで、ヴォルフスブルクはドイツ最多優勝記録を持つ王者(バイエルン)に真っ向から勝負しようとしている。「コンセプト、継続性、そして金」。ヒーテはヴォルフスブルクの新プロジェクトの鍵をそう認識している。「これがミックスされて爆発するんだ」。
アロフスSDはリーグでも最高のディレクターの一人として位置づけられている。『スカイ』のローベルグ記者は、「補強に関して、良い目を持っている」と評する。その点は何年にもわたってブレーメンで証明しており、トーマス・シャーフ監督とともに大きな成功を収めた。「ヘキングは選手に関して良いセンスを持ち」(ローベルグ)、なおかつ現実的な人物として知られる。アロフスSDがよく口にするのは、「前進」と「ハードワーク」だ。この2つが、ハーモニーを奏でる。「われわれは計画を進めたいんだ」と指揮官は語る。「あまりに多くの感情が入り交じってしまうから」プロジェクトについては話せないというが、ヘキングの感じの良さが、クラブと人々を近づける。話をするのはビールとソーセージについてであり、シャンパンとキャビアを語る口は持たないのだ。