驚くべき進化を遂げたヴォルフスブルク 資金力で王者を脅かす小クラブの野心

クラブの一体感を強めた悲劇

20歳のマランダが事故死するという悲劇が、クラブの一体感をさらに強めることになった 【Bongarts/Getty Images】

 冬期中断期間の運命の悲しい一撃が、さらにクラブの一体感を強めた。若きベルギー代表ジュニオール・マランダが、20歳の若さにして自動車事故で亡くなったのだ。ブンデスリーガにとってもショックであり、クラブにとってはまさに大打撃だった。「ヴォルフスブルクは単なる会社のクラブではないのだということを示したと思う。人間らしさが示されたんだ」。悲しい事故から数週間後、ヘキング監督はそう話した。この指揮官は選手たちとたくさん言葉を交わし、苦しんでいる選手には手を差し伸べる。「ジュニオールはチームで幸せそうにしていたし、誰からも愛されていた」とローベルグ記者も話す。チームメートたちは、今でも彼のことを口にする。現在も、ジュニオールはチームの一部であり続けているのだ。

 クラブはどのように、選手を襲った悲劇に対処すべきか。「われわれがバイエルンを倒したなら、ジュニオールは喜ぶことだろう」。ブンデスリーガのシーズン後半戦スタートを前にして、ヘキングはそう語った。その言葉のとおり、ヴォルフスブルクは勝利をつかんだ。ブンデスリーガ第18節でバイエルンを4−1で倒したのだ。「今日という日に打ち勝ったのだ」と指揮官は語った。今年に入り、ヴォルフスブルクは1敗しかしていない。

 ヴォルフスブルクで、ファンはスペクタクルな試合を楽しんでいる。リーグでは4−1(対バイエルンなど)、5−4(第21節の対レバークーゼン)、5−3(第23節の対ブレーメン)と派手な試合をして、ヨーロッパリーグではインテルを下した。ドイツカップでも準々決勝へと進んでいる。「計算していたゴール数を超えている。素晴らしいね」。現在の数字に、ヘキングも満足している。

 今シーズン、指揮官はチームをドイツ第2の勢力へと成長させた。その中でも、傑出している選手がいる。ケヴィン・デ・ブルイネである。「監督と選手を一緒にしたような選手だね」とヘキングは笑う。指揮官はこのベルギー人選手を「最も重要な選手」と公言する。だが、ブンデスリーガで9得点17アシストを記録しているデ・ブルイネだけが、現在の成功の鍵ではない。「チーム全体が、非常に均一化されているんだ」とヒーテは分析する。その中で、ナウド、ルイス・グスタボ、デ・ブルイネ、バス・ドストといった選手たちが機能している。すでに13ゴールを挙げているドストに、3カ月前は誰も大きな期待を抱いてはいなかった。

 世界王者になったアンドレ・シュールレは、新しいユニホームでの初ゴールを待っている状態だ。この攻撃的MFをブンデスリーガに呼び戻すため、ヴォルフスブルクは3200万ユーロ(約41億円)を支払った。また、同じように大きな注目を浴びているのがチャン・シーチェーだ。ただしその視線は、中国から寄せられている。ヘキングはこの24歳のMFについて、自身の「秘密兵器」だと話している。そのためか、まだ起用には踏み切っていないようだ。ただし、チャンはフォルクスワーゲンにとっては中国という巨大な市場に向けてのPRの一環でもあり、ここにもまた、投資とスポンサードとの関係が見て取れる。

本当のビッグクラブになるために

大車輪の活躍を見せるデ・ブルイネ(手前)らスター選手をいつまで留めておけるか。ビッグクラブへの道のりは長い 【写真:ロイター/アフロ】

 ヴォルフスブルクは成長を続けている。フランク・フェアヴァイエンの言葉を信じるなら、すでに世界でトップ10に入っているのだという。『clubworldranking.com』で66歳のこのオランダ人は、自身でつくった世界中の40のリーグのリストを分析している。だが、彼の言葉に頼らずとも、バイエルンは2位につけるクラブが世界トップランクを目指していることに気づいている。ヒーテは語る。「そうだ。ヴォルフスブルクはいつの日か、バイエルンにとって危険な存在になり得る」。そうした関係になるにはもちろん、バイエルンが落ち目の時期にぶつかる必要はある。だが、強大な資金力をバックに、CLにも継続的に出ていれば、バイエルンを脅かす存在になることは可能だろう。「もちろん誰も公言はしないが、ヴォルフスブルクは明らかにタイトルを狙っている」とローベルグは語る。今後数年で、さらに拮抗(きっこう)したタイトルレースを演じることをヴォルフスブルクは狙っている。

 デ・ブルイネらスター選手を手元に置き続けられるかは分からない。レアル・マドリーのようなクラブにドアをノックされたなら、選手を留め置くのは難しい。おそらく、ミュンヘンからのノックでも、選手を引き離されるだろう。「ヴォルフスブルクは本当のビッグクラブにステップアップするための教育クラブという状況が続いているんだ」とヒーテは話した。

 ヴォルフスブルクが本当のビッグクラブになるまでの道のりは長い。最終的には、クラブの名前や歴史が決定的な役割を担うのだ。“最年少”のクラブとして成功をつかむことが、そうした決定打になることはない。だが、タイトルを取ったなら、どうなるかは分からない。そうした積み重ねが、ヴォルフスブルクを次のレベルへと引き上げることは十分にあり得る話だろう。世界中の名門も、さまざまな歴史を経て現在の地位を築いてきた。そのポジションが不変のものではないことを知るからこそ、ヴォルフスブルクは栄光の時代を信じて、自分たちの歴史を積み重ねているのだ。

(翻訳:杉山孝)

2/2ページ

著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント