新監督が初陣で見せた“道”とは何か? チュニジア戦でのハリル采配を読み解く

宇都宮徹壱

現時点で浮かび上がる4つのコンセプト

日本代表に新たな息吹を引き出そうとしているハリルホジッチが、チュニジア戦で見せたコンセプトとは 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ヴァイッド・ハリルホジッチ新体制となった日本代表の練習が全面公開となったのは、大分での合宿4日目、すなわち初陣となるチュニジア戦前日のことであった。これまでの代表合宿の場合、試合前日は冒頭15分の公開とし、それより前(おおむね試合2日前)に全面公開とするケースが多かった。ところが今回は、初日は監督やスタッフも加わったランニングだけで終了。2日目と3日目は15分の公開のみ。そして試合前日の4日目になって、ようやく全面公開となった。

 練習メニューは、スプリントや判断力や正確性を意識したものが多かった。フィールドプレーヤーを12人ずつに分けたミニゲーム(ハーフコート、ゴール4つ、2タッチ以内というレギュレーション)では、「スタメン組とサブ組」ではない「チームAとチームB」を指揮官が用意していることをうかがわせた。おそらく当人が明言したとおり、できるだけ多くの選手をこの2試合で試すことになるだろう。

 個人的に印象に残ったのは、練習中のハリルホジッチの動きであった。細かいことはコーチングスタッフに任せるのでなく、積極的にトレーニングに関与するのがどうやら基本スタンスらしい。自ら率先して選手と一緒にランニングし(選手が走り終えたあとも、ひとり黙々と走り続けていた)、ミニゲームの際には自らもビブスを着て選手に細かい指示を与え、そして最後のシュート練習では自らパサー役を務めた。ワンセンテンスに3回も「自ら」と書いてしまったが、それくらい積極的に選手に関与しようとしているのである。

 62歳という年齢をまったく感じさせない情熱と積極性をもって、日本代表に新たな息吹を引き出そうとしているハリルホジッチ。そのサッカーのコンセプトは、これまでの当人の発言や選手の証言から、以下の4点に集約することができよう。

(1)相手との力関係や試合の状況によって、パスサッカーもカウンターサッカーもできること
(2)ボールを持ったら全員攻撃、ボールを失ったら全員守備をすること
(3)規律と運動量と球際の強さを重視していること
(4)特定の選手に依存することなく、またメンバーを固定化せずに総力戦で戦えること

「驚きのスタメン」をどう見るべきか?

この試合が初キャップとなった川又だが、試合後「ゴールを決めてないから全然意味ない」と納得がいかない様子をみせた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 驚異的なスピード感をもってチーム改革に着手している新監督だが、とはいえたった4日間(実質3日)の合宿である。チュニジアとの初陣では、何ができて、何が課題となったのか。この4つのコンセプトに留意しながら、初陣となったチュニジア戦を振り返ることにしたい。

 まずは、この日のスタメンから。GK権田修一、DFは右から酒井宏樹、吉田麻也、槙野智章、藤春廣輝。中盤は守備的MFに山口蛍と長谷部誠、右に永井謙佑、左に武藤嘉紀、トップ下に清武弘嗣。そしてワントップに川又堅碁。システムはアルベルト・ザッケローニ監督時代におなじみの4−2−3−1。キャプテンもこれまでどおり長谷部だが、それ以外は大幅なメンバーの刷新と言ってよい。本田圭佑、香川真司という「日本代表の顔」がそろってスタメンから外れ、川島永嗣、森重真人、岡崎慎司といったコアメンバーもそろってベンチスタートとなった。一方、初招集の藤春をはじめ、川又もこれがうれしい初キャップ。永井は5年ぶりで、ようやく2キャップ目を刻むこととなった。

 この顔ぶれをどう見るべきか。先に述べたとおり、ハリルホジッチはメンバー発表会見で「(2試合を通して)できるだけ多くの選手を見たい」と語っている。交代メンバー6名すべてを使えば、今回招集したメンバー29名(けがで離脱した2名を除く)のほぼ全員を、この2試合で試すことは可能だろう。今月31日に対戦するウズベキスタンは、6月から始まるワールドカップ(W杯)アジア2次予選で対戦する可能性があるため、その兼ね合いも多少は考慮されているのかもしれない。が、このチュニジア戦に関しては、指揮官が「優先的に見ておきたい」選手をチョイスしたと見てよいだろう。

 前半の日本は、代表ビギナーが少なくないこともあり、監督からの指示に徹したサッカーを展開していた。守備面では、4−4−2の陣形になって勇気をもって前からアプローチする。攻撃面では、スピードを生かした縦方向の攻撃を意識する。守備から攻撃、あるいは攻撃から守備に回ったときの素早い切り替えについては言うまでもない。この点についてハリルホジッチは「選手はこちらが要求したことをかなり実践しようとしていた。彼らには本当に素晴らしい試合をしてくれた」と一定の評価をしている。

 しかし一方で、前半は急造チームゆえの拙さが前面に出た45分でもあった。肝心な場面でのパスミスや判断の迷いが随所に見られ、時折ヒヤリとさせられる場面さえあった(前半10分の吉田から権田への不用意なバックパスなど)。また、リスタートの場面でいくつかチャンスを作っていたが、絶望的なまでにシュートの精度が悪いのも気になった(前半31分、長谷部からの折り返しを受けた清武が外したシーンなど)。前半22分にCKからバーを直撃するヘディングシュートを放った川又は、「ゴールを決めてないから全然意味ないですよね。俺は結果が出てこそFWだと思っているから」と、自分のプレーにまったく納得できない様子。前半は0−0で終了する。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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