アーセナルが届かなかった「あと一歩」 伏兵モナコにアウェーゴールで屈した敗因

東本貢司

“お得意”のアウェーゴール負け

アーセナルは敵地でモナコに2−0と勝利しながら、ホームで喫した3失点が響き、アウェーゴール差で敗退が決まった 【写真:ロイター/アフロ】

 分かっていた。モナコはひたすら守備に徹し、アウェーゴール「3」の繭(まゆ)の中に閉じこもる。出足でこそ、そこそこ“覇気”を見せたのも、あわよくば速攻で先制ゴールを奪って敵の希望を断ち切ることができれば、という、スタッド・ルイ・ドゥのホームサポーターへのいちおうの礼儀、ポーズだったか。なんとなれば、彼らには信じるに値する“盾”があった。この2年以上も、ホームで3点以上失ったためしはないという、心理的な盾が。

 では、アーセナルがスコア上「あと一歩まで迫った」ことをどう評価するか。つまり、予想通りの図式から“最低限の誇りを示す”2ゴールをもぎ取るに至った経緯について。

 17日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦のセカンドレグ、アーセナルは2−0でモナコに勝利を収めながら、合計スコア3−3のアウェーゴール差で敗れた。試合終了直後のガナーズ(アーセナルの愛称)ファンの、多分に“失意の印象に偏った”声がある。

「いつもの繰り返しだ。不甲斐ないファーストレグ(編注:ホームで1−3の敗戦)、すばらしいセカンドレグ。誇らしく思うべきか、がっかりするしかないのか、判断に困ってしまう」

「(最近)ガナーズ“お得意”のアウェーゴール負け」

「アーセナルがこの先も毎年CLで戦うに値することは保証するが、絶対に優勝などできっこないことも保証する」

 これが、評論筋(元プレーヤー)の感想になると──。

「全力を尽くしたことだけは間違いない。それはファンも認めてしかるべきだ。意地を見せてくれた。しかし……」

「チャンスも多く作った。ゴールも奪った。あと一歩及ばなかった。あえて言えば運がなかった。返す返すもファーストレグが……。あの、3失点目を喫したときの集中力の欠如が恨めしい。それにしても……」

 この「しかし」と「それにしても」の続きについては、明確に述べられていない。ただし、ヒントはそれまでの彼らの短評解説から探れないでもない。それらを元に、及ばずながらも筆者の感想を膨らませつつ、足りなかった、及ばなかった「あと一歩」の中身をひもといてみようと思う。

エジルの行動に不快感を示したファン

前半終了後、コンドグビア(左)とユニホーム交換をしたエジル(右)には批判の声も 【Getty Images】

 とはいえ、実はこれが難しい。アーセン・ヴェンゲルが送り出したスタメンに何ら不満はなく、現実にほぼよく機能した。故障が癒えて間もないアーロン・ラムジーとテオ・ウォルコットをベンチに置いたのも至当で、いずれ“時が来たとき”の彼らのインパクトに期待も膨らんだ。実際、2人が投入されたタイミング(後半18分と27分)も納得がいくものだったし、何よりも2点目は彼らの存在あってこそ生まれた(もちろん“結果論”で「もう少し早ければ」と悔やむのは筋違いで何の意味もない)。

 チーム構成、采配、先制点を取るべき人(オリヴィエ・ジルー)が取り、追撃弾もほぼピンポイントの交代から生まれた。単体のゲームとしては紛れもない快勝であり、つまり“届かなかった敗因”はやはり、敵の攻撃マインドがひとえに淡泊で消極的に帰したゆえ――。普通であれば、2015年3月17日のモナコ対アーセナルの一戦は、これ以上の言葉を尽くそうにも困ってしまうところなのだが、一つ、どうしても(たぶん、のど元辺りに)引っかかっていることがある。それも、ハーフタイムのホイッスルが吹かれて間もない頃から。

 そのとき、あるモナコのMF(ジェフリー・コンドグビア)が引き下がる道すがら、メスト・エジルとシャツの交換をした。ワールドカップでなら、ごくたまに見られる光景だが、「珍しいな」と思った瞬間、ビジターサポーターが陣取る一角からだろうか、小さなどよめきが聞こえた気がした。のちに一部の報道ソースで確認してみたところ、かなりの数のガナーズファンから「不愉快。見たくなかったシーン。何のつもりだ」などの声が上がったいたという。

 それを“翻訳”してみるなら、例えば「エジルは実はもう一つ闘志の点で、集中できずにいるんじゃないのか?」だったろうか。なまじこの印象が的(まと)を外していたところで、ゲームがお開きになる前のそのような“寛容さ”や“気前の良さ”は、熱し切ってかついら立ちが募るばかりのファンの神経を逆撫ですることが往々にしてあるものだ。

 いや、そもそも「シャツの交換」が何を示唆していたかなどはどうでもいいことだったに違いない。“彼ら”は(筆者同様に)おそらく、どこか物足りなく感じていたのだ。そう、ファーストハーフのアーセナルに時おり見られる「緩み」もしくは「わずかなテンポのずれ」、その“中心”にいたのがエジルだったと、彼らには薄々分かっていたからではなかったか。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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