変化した鈴木隆行のプレー意義 現役続行にこだわり千葉へ渡る想いとは

佐藤拓也

考え方の変化と成長

“孤高”のイメージの強い鈴木だが、水戸に来ていろんな人と接するようになり、その考え方が変わったという 【写真:アフロスポーツ】

「J2でプレーするぐらいなら引退した方がいいぐらいに考えていた」とまで口にしていた鈴木だが、水戸でプレーするようになって、「その考えが変わった」と振り返る。「サッカーが楽しくなった」のだと笑みを見せながら語った。

 一番の変化として挙げたのは「人間的な部分での成長」だ。それまで自分一人で戦っているような感覚を抱いていた。だが、水戸に来て、いろんな人と接するようになって、その考えが変わった。

「水戸に来てからコミュニケーションの取り方がうまくなったと自分で感じています。周りの人とコミュニケーションを取ることで自分の人生がうまく回るということを実感しました」

 “孤高”のイメージの強い鈴木。ファンサービスやメディア対応など積極的なタイプではなく、むしろ避けてきたところもあったが、水戸では自ら積極的に行うようになった。また、水戸はホームゲーム前には必ず選手がJR水戸駅前に立ってチラシを配布することとなっているが、それも快く引き受けた。以前では考えられないような姿が多く見られた。

「水戸の現状を考えると、選手はプレーだけしていればいいというわけではない。そういう活動をもっともっとやっていかないといけないと思う」

 そうイキイキと語る鈴木にはもはや“孤高”のイメージはなかった。

「茨城を元気にするため」との思いがそうさせたのだが、自ら進んで前に出ていくことによって、支援してくれる人が増えることに気付き、「その人たちのために頑張ろう」という思いを強く持つことができるようになったのだという。

 その結果、鈴木加入後、水戸の平均観客数は11年の3349人から14年には4734人まで増加。多くの人に支えられてプレーができている。その実感を得られたことによって、今まで以上にやりがいを感じるようになった。

大きな影響を与えたもう一つのきっかけ

 そして、もう一つ「楽しくなった」理由として挙げたのが「指導者目線」を持ったことである。

 昨年、鈴木はJFA公認A級コーチライセンス取得のために2度の合宿に参加。指導者としての勉強を重ねた。

「これまで感覚的にプレーするところが多かったけれど、コーチングを勉強して理論的に考えることによってサッカーが面白くなった。もっと早く勉強すればよかったと思うし、今の現役選手も指導者の講習を受けた方がいいと思う」

 そう目を輝かせて語るほど、サッカー観に大きな影響を与えたのであった。

現役続行への強い想い

現役を続けられる喜びをかみ締め、千葉で第三のサッカー人生が幕を開ける 【写真:アフロスポーツ】

 だが、昨季は若手の台頭もあり、出場機会は減少。3得点にとどまった。

 昨年度クラブは約3600万円の赤字を計上したため強化費の削減を余儀なくされ、さらにJ1クラブライセンスを取得できることが予想される3年後に向けてチームは若返りを図る方針を打ち出した。そうしたチーム事情ゆえにクラブからは14年シーズンでの契約満了を伝えられ、柱谷監督からは引退してスタッフ入りへの打診を受けた。

 当初「水戸だからプレーする意味がある」と考えていた鈴木。しかし、それ以上に「楽しくなってきた」サッカーを続けたいという気持ちが強くなっている自分に気が付いた。水戸を離れても、現役を続行する決断を下したのであった。

 その後、鈴木のもとに正式なオファーが届くことがなかったものの、鹿島時代にお世話になった千葉の関塚隆監督と連絡を取り、練習参加を許可され、約2週間アピールし続けた結果、正式に契約を結ぶこととなった。

「今までこんなに感謝したことはなかったし、結果で返したいと思っています。優勝するために自分の持っているものすべてを出し、命がけで戦いたい」

 加入に際して残した鈴木の力強いコメントには「現役を続けられる喜び」がほとばしっている。

 もう“孤高”ではない。チームメートとともに、チームを支えてくれる人のために戦う。それをサッカーの喜びと知った男の、サッカー人生第三の幕が開ける。

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著者プロフィール

1977年7月30日生まれ。横浜市出身。青山学院大学卒業後、一般企業に就職するも、1年で退社。ライターを目指すために日本ジャーナリスト専門学校に入学。卒業後に横浜FCのオフィシャルライターとして活動を始め、2004年秋にサッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターとなる。現在は『EL GOLAZO』『J’s GOAL』で水戸ホーリーホックの担当ライターとして活動。2012年から有料webサイト『デイリーホーリーホック』のメインライターを務める。

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