PSGを悩ます2人のCFの共存問題 CLを前に募るブラン監督への不信感

木村かや子

不穏な空気が漂ったカーン戦

CL直前のリーグ戦では89分から2失点しドローに終わるなど、けが人続出のPSGが苦しんでいる 【写真:ロイター/アフロ】

 チャンピオンリーグ(CL)、対チェルシー戦前夜のパリ・サンジェルマン(PSG)の状態は、全くもってよろしくない。

 14日のリーグ・アン第25節のカーン戦で、PSGは、選手たちが『ひとりでに』バタバタ倒れていくという奇怪現象に襲われた。それがなくとも、現順位(第25節までを終えて3位)が示すように、今季のPSGは、さまざまな問題から四苦八苦している。カーン戦で起きた故障者続出は、まさに『泣きっ面に蜂』のダメ押しだった。

 対戦相手との接触が全くない状態で、まず前半にヨアン・キャバイェ、それからマルキーニョスが筋肉を痛め、プレー不可能となって交代。68分、ローラン・ブラン監督が特に必要ないように見えた3人目の交代を行った直後に、今度はセルジュ・オーリエが倒れて担架で運び出された。続いて70分過ぎには、ルーカスまでがそけい部を痛めて退くことに。前半に楽々と2−0でリードし、89分まで踏みこたえておきながら、9人になったPSGは、最後の最後に2失点し、暫定1位となるチャンスまで逃してしまった。

 この試合前にすでに故障を負い、カーン戦で温存されていたハビエル・パストーレとチアゴ・モッタがぎりぎりで復帰したとしても、PSGは、ほとんど交替枠の余裕がない状態で、自分たちより優位とされるチェルシーに挑むことになる。カーン戦で起きた出来事は、周囲から「たたりか」との声が出るほど不運な出来事だったが、ときには不運にも、隠れた理由があるものだ。

 このカーン戦後、ブラン監督は、3人目の交代が早すぎたと非難されることになった。それが、実はブレーズ・マテュイディが膝を痛めたからだと説明されたあとにも、非難は止まなかったのだが、その根元には、他の問題とも関連した、ブランの能力への不信感があったのである。

イブラのために犠牲を強いられるカバーニ

いつも優遇されるのはイブラヒモビッチ(右)。結果を残しても本来のポジションで起用されないカバーニ(左)の不満がチームに不穏な空気をもたらしている 【写真:ロイター/アフロ】

 今季、PSGに良くない空気を漂わせている原因のひとつに、エディンソン・カバーニとズラタン・イブラヒモビッチの共存問題がある。2人の不仲のうわさも飛んだと聞くが、本当の問題は、カバーニが、ブラン監督が課す自分のポジションと、イブラヒモビッチと比較しての自分の扱いに、不満を抱いていることなのだ。

 元イタリア・セリエAの得点王をふたり擁しているとなれば、CLなどの重要な試合で、その双方を同時起用し、最大限の力を発揮させられるようでなければ、宝の持ち腐れというものだ。しかし今季のブランは、このふたりを別々に使うことによってしか、良い結果を出せていない。ふたりが同時に出る場合、イブラヒモビッチがワントップの位置につき、カバーニが4−3−3のウイングに入るのがブランの定石だ。実際、昨シーズンは、新加入だったカバーニの献身と謙虚さ、またイブラヒモビッチの好調さにより、この陣形でうまく機能していた。

 ところが今季に入り、自身が天性のポジションと信じるセンターFW(CF)の位地につけないことに、カバーニが不満を示し始めた。昨季は、新加入であること、また好調だったイブラヒモビッチが得点だけでなくアシストでも大いに貢献していたこともあってか、カバーニは文句ひとつ言わずに任務に打ち込んでいるように見えた。実際、その献身的姿勢と、いざというときに好機を得点に変える能力、守備にも積極的に戻る運動量で、カバーニは高い評価を得ていたのである。

 もともとナンバー10のイブラヒモビッチは、CFとして起用されても、前で張っているようなことはない。しきりに下がってボールをもらいにいき、そこから攻撃の組み立てもする。そのため昨季には、サイドのカバーニが中央に入り、得点を狙うチャンスも多々あった。しかし今季、イブラは9月半ばから11月初頭までの2カ月弱、踵(かかと)の故障で戦列を離れ、やっと戻ってからも、なかなかかつての調子を取り戻せないでいたのだ。

 9試合の空白の後に復帰したイブラヒモビッチは、運動量が極端に落ち、パスのミスも目立って、明らかに本調子に戻っていなかった。彼の不在の間にCFの位置に収まり、着実に得点していたカバーニは、それでも、イブラヒモビッチの復帰とともに、ベンチ、あるいはサイドへと追いやられることになる。復帰したイブラヒモビッチが大活躍していたなら、カバーニも黙っていたかもしれない。しかしそうではなかったために、カバーニの中に、イブラヒモビッチは不調でも監督に優遇され、自分は常に、向かないポジションでプレーするなどの犠牲を強いられる、という不満が生まれたらしいのだ。

 この問題の出発点には、ブランが好調のカバーニを下げ、不調のイブラヒモビッチを残した、昨年9月21日第6節の対リヨン戦がある。前節のレンヌ戦でイブラヒモビッチがすでに踵を痛めていたこと、そのせいで動きが極めて悪かったことを鑑みれば、交代させて然るべきだったが、それでもイブラヒモビッチを最後まで残したブランの決断は、試合後、ちょっとした論議を巻き起こした。ブランには、イブラヒモビッチを下げる度胸がないのでは、という疑惑が持ち上がったのだ。

 イブラヒモビッチはファイターであり、多少疲れていても、常に試合に出たがる。昨季、休みなく起用され続けたイブラヒモビッチが、CLの重要な試合前に筋肉疲労からくる故障をこうむったこともあり、監督たるものは、選手の希望ではなく、選手の状態から判断して、交替や起用を決めるべきだ、という声も上がり始めた。

 さらに言えば、復帰後、コンディションの低下ゆえに動きが少なくなったイブラヒモビッチは、以前のように縦横無尽に動かず、センターの縦軸をより短い長さで上下するだけとなることが多かった。後ろからもらったボールをいったん誰かに預け、センターを自ら上がってまたボールをもらい直すのが常で、あまり左右に動かないし、守備はほぼしない。そしてその結果、カバーニがセンターに入り込むチャンスも減ってしまったのだ。運動量の減ったイブラヒモビッチを使うのであれば、元々かなり下がる傾向のあるイブラヒモビッチをトップ下にし、カバーニをCFにした4−2−3−1を考慮すべきでは、と意見が上がったのも、理にかなったことだった。

1/2ページ

著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント