南野デビューも「物足りなさを感じる」 チームが求めるのは勇気と切り替えの速さ

中野吉之伴

カンプルの後継者として期待されるもの

チームに順応していくために、南野には勇気と切り替えの速さが求められる 【Bongarts/Getty Images】

 ザルツブルクは現在オーストリア・ブンデスリーガで首位を独走しているが、冬の移籍市場でベストプレーヤーだったケビン・カンプルがドルトムントへ、アランが中国の広州恒大に移籍してしまった。クラブは即戦力の補強ではなく、将来性のある若手を積極的に登用する方針を選び、監督のアディ・ヒュッターは「われわれの平均年齢はさらに一回り下がったが、非常に良い道を歩んでいる」とチーム戦力に自信を持っていた。しかし、ゲームをコントロールすべき主力の離脱がここに影響している。

 例えばこの試合の前半では中央突破に固執しすぎたために相手の体を張った守備を崩すことができないでいた。ビルドアップからの縦パスはリズムを変え、攻撃のスイッチを入れることができる有効な武器だが、常にそればかりを狙っていては相手に奪いどころを絞られてしまう。南野もそれに引きずられ、狭いスペースで相手のマークを常に受けながらのプレーを余儀なくされていた。もちろん来たばかりの南野にどうにかしろというのは酷な話かもしれない。しかしカンプルの後継者として期待がかけられているだけに、こうした状況で攻撃を落ち着かせ、リズムに変化をもたせる動きが求められている。

 そんな南野のポジショニングに後半、改善の兆しが見られるようになる。相手選手の間のスペースにするすると入り込み、相手選手が「自分がマークに付くべきかどうか」を迷うような位置取りをしだしたのだ。54分にDFからの縦パスをFWホナタン・ソリアーノ・カサスがダイレクトで南野に落とし、そこから左サイドへ展開というプレーがあったが、この時の距離感、位置関係は南野のイメージとチームのイメージがうまく合わさっていた。

 チームも後半になるとサイドをワイドに使い、相手守備を揺さぶるようになる。前半と比べると面白いようにパスが回るようになり、ウィーナー・ノイシュタットを追い込んでいく。リーグ得点王をひた走るソリアーノが50分にペナルティーエリア左外から見事な直接FKを決めて先制すると、67分にDFラインの裏に抜けだしたマッシモ・ブルーノのアシストを受けて、またしてもソリアーノがゴール。最終的には順当勝ちを収めた。

見据えているステージはここではない

 南野のプレーには良いところもあったが 満足がいくレベルではなかった。移籍後最初の公式戦で先発出場したことについて「そのつもりで来ています。ここからだという気持ちのほうが自分では強いです。今日の試合では(自分のプレーに)物足りなさを感じているので。もっと存在感を出して、チームの勝利に貢献できるようにやっていければいいかなと思います」と言い切った。見据えているステージはここではない。その先にたどり着くためには何が必要なのだろうか。

 素早い切り替えの連続が求められるトップレベルのサッカーでは攻守両面におけるインテンシティー(プレー強度)が非常に重要になる。ダッシュでボールを奪いに行ったあとで、すぐにまたダッシュで裏のスペースに飛び出し、ボールを失うとまたダッシュで戻る。これをどれだけの頻度で繰り返しできるか、そしてそれだけの負荷の中でも冷静な判断力で確かな技術を発揮できるか。今日の試合の頻度では足らないし、そのことは南野自身も分かっているだろう。

 攻撃的なサッカーに惹かれてザルツブルクを選んだ南野。かつてラングニックは「攻撃で大事なのはスピードとプレーアイデア。そして勇気がなければならない。若い選手にとってリスクを冒してでも積極的にプレスを仕掛け、ボールを奪い取り、素早く仕掛けていくサッカーは冒険のように魅力的なんだ」と諭すように語っていた。南野がその魅力に引き込まれ、チームをけん引する存在にまで成長したら――。欧州における楽しみがまた一つ増えた。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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