アジアカップで痛感した4強時代の終焉 日々是亜州杯2015(1月31日)

宇都宮徹壱

オーストラリアをAFCから追い出したい人々

2大会続けてファイナルに勝ち進んだオーストラリア。会場周辺は地元サポーターの熱気に包まれた 【宇都宮徹壱】

 大会23日目。1月9日にオーストラリアのメルボルンで開幕したAFCアジアカップ2015も、ついにこの日、ファイナルを迎えることとなった。この日は3位決定戦が行われたニューカッスルから、鉄道で決勝が行われるシドニーへ移動。車窓から見える青空と、くっきりとエッジの効いた雲を見ていると、自然と胸の鼓動が高鳴るのを覚える。55年ぶり、3回目の優勝を目指す韓国と、自国開催での初優勝に期待がかかるオーストラリア。8万人収容のスタジアム・オーストラリアでカップを掲げるのは、果たしてどちらになるのだろうか。

 そんな中、何とも不可解かつ残念なニュースが飛び込んできた。AFC(アジアサッカー連盟)加盟国の中に、オーストラリアの脱退を求める声が挙がっている、というものである。騒ぎの発端は、オーストラリア人の記者がツイッター上で「AFC加入国の中に、投票でオーストラリアを排除しようとする動きがある」と爆弾発言。それを裏付けるかのように、UAEの新聞が「中東諸国の中にオーストラリアに対して不満がある」とする、サルマン・アル・ハリファAFC会長のコメントを掲載したため、騒ぎはさらに拡大することとなった。

 実はこの件に関しては3位決定戦後の会見で、UAE代表のマフディ・アリ監督も意見を求められている。アリ監督は「この件に関してはAFCが決めること」としながらも、「オーストラリアがAFCに加盟したことで、ワールドカップ(W杯)予選では大変な移動を強いられることとなったのは事実だ」と本音をもらしている。そもそも中東勢にしてみれば、オーストラリアの加盟によって「W杯出場枠が事実上1枠削られている」というやっかみがあることも容易に想像がつく。事実、オーストラリアがアジア予選に参加した2010年と14年のW杯では、中東からの本大会出場は14年大会のイランのみであった。

 私自身、オーストラリアのAFC転籍が決まった06年当時は、少なからぬ違和感を覚えたこともあった。しかし今大会の取材を続けるうちに、アジアからの移民を積極的に受け入れながら、自身もアジアへと軸足を移そうとしているオーストラリアの“現在”に接するうちに、「オーストラリア=アジア」というイメージは揺るぎないものとなった。この国は今も英国連邦の一角を担っているが、地理的な条件に加え、政治的にも経済的にも文化的にもアジアとの結びつきを強めている。おそらく22世紀のオーストラリアは、すっかりアジア化していることだろう。いずれにせよサッカールー(オーストラリア代表の愛称)には、こうした政治的な雑音には左右されることなく、今日のファイナルに集中してほしいところだ。

2大会続けて優勝の行方は延長戦へ

オーストラリアは延長前半アディショナルタイムにトロイージ(右)のゴールで勝ち越しに成功。韓国を振り切った 【Photo by Mark Kolbe/Getty Images】

 毎試合のようにディフェスラインの陣容を変えながら、ここまでの5試合を無失点の韓国。そして5試合で最多12ゴールを挙げ、しかもゴールスコアラーが10人を数えるオーストラリア。今大会の決勝は、実に好対照な顔合わせとなった。両者はグループリーグ第3戦でも対戦しており、その時は大幅にメンバーを替えてきたオーストラリアを韓国が1−0で撃破している。会場のスタジアム・オーストラリアには、今大会最多となる7万6385人が集結。スタンドのおよそ8割がオーストラリアのサポーターで埋め尽くされていたが、メインから見て左側のゴール裏は韓国のサポーターで赤く染まり、国歌斉唱の際には巨大な太極旗(韓国国旗)が出現した。

 試合内容については、多くの方が映像をご覧になっていると思うので、得点経過を中心に振り返ることにしたい。前半は、どちらも「失点しないこと」を第一にプレーしているような、手堅い試合運びに終始した。このまま0−0でハーフタイムかと思われた前半45分、ゲームが動く。センターバックのトレント・セインズバリーから矢のようなスルーパスが通り、これにインサイドハーフのマッシモ・ルオンゴが反応。ボールを受けると素早く反転し、ペナルティーエリア手前で右足から放たれた低い弾道は、そのままゴール左隅に吸い込まれていく。この瞬間、韓国が525分守ってきた無失点記録は、ついにピリオドが打たれることとなった。

 後半、韓国のウリ・シュティーリケ監督は、長身DFのカク・テヒを前線に上げ、パワープレーによる反撃を試みる。この采配が的中したのは、オーストラリアが勝利を確信し始めた後半アディショナルタイムであった。自陣からのロングボールに、カク・テヒが相手と競り合いこぼれたボールを、ハン・グギョンがすぐさま拾い、さらにキ・ソンヨンが前方にラストパス。これを受けたソン・フンミンが、GKマシュー・ライアンとの1対1を制して同点ゴールを挙げる。土壇場での劇的な展開にスタジアムは騒然となり、再び巨大な太極旗が出現した。かくして前回大会に続いて、優勝の行方は延長戦以降に持ち越されることとなる。

 今大会の最後を飾るゴールは、延長前半アディショナルタイムに生まれた。途中出場のトミ・ユリッチが、右サイドのゴールライン付近でキム・ジンスとマッチアップ。この時、キム・ジンスがボールを奪ってしまえば、そのまま何事もなく、延長後半を迎えるはずであった。ところが、そこにソン・フンミンが接近してきたことで2対1の状態となり、心理的なエアポケットが生じる。そこをユリッチは見逃さなかった。赤い包囲網をするりと突破すると、角度のないところからラストパス。いったんはGKキム・ジンヒョンにはじかれるも、これまた途中出場のジェームズ・トロイージが着実に詰めてネットを揺らす。これが、オーストラリアを初優勝に導く決勝ゴールとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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