アジアカップで痛感した4強時代の終焉 日々是亜州杯2015(1月31日)

宇都宮徹壱

今大会で最もインテンシティーが高かったゲーム

開催国としては6大会ぶりに優勝したオーストラリア。韓国との死闘を見事に制しての戴冠だった 【宇都宮徹壱】

 かくしてオーストラリアは、初のアジア王者に輝いた。アジアカップにおける開催国の優勝は、92年大会の日本以来、実に6大会ぶり。そしてオーストラリアは、オセアニアとアジア、2つの大陸でチャンピオンになるという、珍しい記録を打ち立てた。なお、オーストラリアは今大会のフェアプレー賞も獲得。ベストGKはオーストラリアのライアン、得点王はUAEのアハマド・マブフート(5ゴール。そのうちの1ゴールは日本戦で挙げたもの)、MVPにはルオンゴが輝いた。この試合で、5枚のイエローをもらったオーストラリアがフェアプレー賞というのは、いささかの驚きを禁じ得なかったものの、それ以外の受賞者については十分に納得のいくものであった。

 敗れた韓国についても言及しておきたい。試合後の会見でシュティーリケは「どちらが勝利してもおかしくないゲームだった。優勝カップを2年ずつ保持したいくらいだ」と語っていたが、決して負け惜しみから出た発言ではなかったと思う。今大会の韓国は、体調不良を訴える選手が続出、イ・チョンヨン、ク・ジャチョルといった攻撃の核となる選手たちも怪我で相次いでリタイアした。それでも、ソン・フンミンやナム・テヒがその穴を埋めて余りある活躍を見せ、それまで無名だったFWのイ・ジョンヒョプも今大会で一気にブレークした。伸びしろのある選手たちが今大会を経験したことで、シュティーリケ体制の韓国は日本にとってさらに厄介な存在になりそうである。

 それにしても今大会のファイナルは、「面白い」とか「スリリング」というよりも、むしろ「壮絶」という表現が最もふさわしかったように思う。この日、オーストラリアのアンジ・ポステコグルー監督が切った3枚の交代カードのうち、少なくとも2枚は選手の負傷によるものであった。対する韓国も、延長戦に入ってからは足をつる選手が続出。もはや戦術やテクニックを度外視した、まさに闘争心と気力のぶつかり合いといっても過言ではなかった。それでもインテンシティー(プレー強度)という面では、おそらく今大会随一であったと言えよう。

 余談ながら、会見でシュティーリケは「大韓民国の国民の皆さん。皆さんは、この代表チームを誇ってよいでしょう」と、たどたどしい韓国語で語っていた。わざわざメモまで用意しての指揮官のこのコメントに、韓国の人々は大いに親近感を抱いたことだろう。そういえばハビエル・アギーレ監督も、UAE戦後の会見で「選手を誇りに思う」とコメントしていたことを思い出す。だが、監督が「選手を誇りに思う」と語るなら、せめてこれくらいの死闘を演じてからにしてほしいと感じるのは、私だけであろうか。いずれにせよ、これほどまでにインテンシティーの高いゲームを、今大会で日本が経験できなかったのは返す返すも残念でならない。

今後のテーマは「アジアのトップ4を死守すること」?

ベスト8で敗退した日本は今後、アジアトップ4を死守することを真剣に考えていく必要がある 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 そんなわけで最後に、今大会の総括を述べることにしたい。このオーストラリア大会について、私なりに表現するなら「4強時代の終えん」である。UAE代表のアリ監督は、自分たちの目標について「アジアのトップ4に食い込むこと」と語っている。現状のW杯でのアジア枠は4.5であり、そのうちの4枠を日本、韓国、オーストラリア、そしてイランが確保している、というのが大会前におけるアジアの勢力図であった(中東勢、とりわけ湾岸諸国がオーストラリアを排除したい理由もここにある)。従って4強以外の国々は、今大会のベスト4入りに対して、これまで以上に強い意欲を示していた。そして終わってみれば、イラクとUAEが(いずれもPK戦までもつれたとはいえ)4強の一角であるイランと日本を蹴落とすことに成功。この「ポスト4強」の国々の猛烈な追い上げに、私はかつてない脅威を覚えるようになった。

 日本がUAEに敗れたことに関しては、もちろんPK戦による結果であったことは考慮しなければならないだろうし、120分間のうちほとんどの時間帯で日本が相手を圧倒していたのも事実である。しかし、それらの理由をもって「W杯予選は安泰」であると考えるのは、あまりに楽観過ぎるように思えてならない。たとえばPK戦。04年大会から11年大会にかけて、日本はいずれもPK戦を経験しているが、敗れたのは07年大会での韓国との3位決定戦のみ。残りの3試合は、いずれも勝利している。PK戦は確かに運が絡む話ではあるが、では過去3大会での日本のPK戦の勝率の良さは、どう説明すればよいのだろうか。

 PK戦となった4試合すべてを現地で目撃した経験から、ひとつだけ言えるのは、いずれの試合でも「負ける気がまったくしない」というアジア列強としてのプライドと威圧感が、当時の日本代表からはひしひしと感じられたことだ。そしてそのオーラは、対戦相手にも少なからぬプレッシャーを与えていたようにも思う。しかし今大会の代表には(アジア王者として臨んだにもかかわらず)、そうした神通力のようなものが残念ながらほとんど感じられなかった。

 韓国ではなく、UAEに「PK戦で敗れたこと」。その重みを、もっとシリアスに受け止めるべきだと私は思う。それがフィジカル的な要因によるものか、それともメンタル面での問題に起因するのかについては、今後の技術委員会の分析を待つしかない。しかし「PKは運だから」とか「あれだけ圧倒していたのだから」という理由だけで、6大会連続のW杯出場を楽観視するのは、実はかなり危険なことではないだろうか──。もちろん私だって、こんな危機感を煽るような文章は、できれば書きたくない。しかし今大会の取材を終えた今、そうした不安を払しょくできないまま、間もなく帰国の時を迎えようとしている。

 JFAの『2005年宣言』によれば、今年は「世界でトップ10のチームになる」年として位置づけられていた。しかし10年前の想定と比べて、日本サッカーの成長曲線は明らかに鈍化している。それはアンダー世代の大会やACL(AFCチャンピオンズリーグ)の結果を見ても明らかである。そして今大会、A代表もまたベスト8止まりという予想外の現実を突きつけられることとなった。「世界のトップ10を目指す」ことももちろん結構だが、むしろ今は「アジアのトップ4を死守すること」を真剣に考える時期にさしかかっているのではないだろうか。「坂の上の雲」を見上げるだけでなく、足元にある危機をいち早く察知すること。18年W杯に向けた日本の歩みは、そうした謙虚さと細心さが不可欠であると考える次第だ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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