遠藤から柴崎へ、予感させた新時代の到来 両者が備える能力の違いとは何なのか?

清水英斗

ミスが極めて少ない遠藤

遠藤は極めてミスが少ない。自分が正確にプレーできるスピードの限界を知っているからだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 柴崎は大きなインパクトを残した。しかし、この試合をもって、世代交代が完了したと語るのはあまりにも時期尚早だろう。なぜなら柴崎には、まだまだ越えなければならないポイントがあるからだ。

 遠藤がプレーメーカーとして、長期にわたって日本代表の中盤を支えてきた理由のひとつは、ミスが極めて少ないからだ。ここで言う『ミス』とは、たとえば前方へ行く味方の後ろ足にパスを出し、ブレーキをかけさせてしまうような細かなミスも含まれる。遠藤のパスは、そのような狂いを起こすことが、極めて少ない。ぴたり、ぴたりと、味方の前足へ、正確無比にボールが置かれていく。

 なぜ、遠藤はここまで精度の高いプレーができるのか? それは、自分の限界をよく知っているからだろう。バイエルン・ミュンヘンのジョゼップ・グアルディオラ監督は、「プレーは正確であることが何よりも速い」と言う。パススピードが速くても、それが味方の後ろ足に出てしまえば、ボールを持ち直すためのコントロールに時間を使い、結果、プレーは遅くなる。だから正確であることが、何よりも速いというのだ。

 人はとかく、自分が正確に作業できる“リミット”を知らないまま、超過スピードでミスを犯す。たとえば、焦ってせかせかと作り上げた書類に、たくさんのミスが発覚し、その結果、修正に膨大な時間を費やす。そんなことは誰にでも経験があるはずだ。

 サッカーも同じで、焦って蹴ろうとしたパスやシュートは精度を失ってしまう。うまい選手は、自分が正確にプレーできるスピードの限界を知っている。だからミスが少ないのだ。

遠藤は常に正しい判断をする

 もっとも、バタバタと焦らないためには、いかに状況を広く把握し、対応できるかどうかが鍵になる。そこで面白いのが、遠藤のミックスゾーンでの口ぶりだ。

 ヨルダン戦を思い返すと、乾貴士と長友佑都の左サイドから仕掛けて、右サイド側から決める攻撃が多く見られたが、遠藤はそれが、“固定化されたパターン”であるとは決して捉えない。

「(パターンとして確立しているのか?)いや、乾の左サイドのほうはマークがルーズだったし、あれはあれで、マークが緩ければそこを突いていくのはセオリー通りかなと思います。そういうのは決めてないですし、中央も含めて効率良く攻めれば、それでいいかなと思います」

 同じような質問には、多くの選手が「そうですね」と簡単に答えていたが、この受け答えは、実に遠藤らしいと感じた。即興性を大事にする。裏を返せば、即興でプレーできるほど、常にピッチ上で起きている現象を把握できている。準備ができていれば、焦ることはない。

 森重真人は、遠藤について「常に正しい判断をする選手」と評する。それを支えているのは状況把握能力であり、そこから余裕が生まれ、そして余裕はプレーの正確性につながる。遠藤のプレーは、自らの中に好循環を生み出しているのだ。

柴崎が改善すべきプレーの粗

遠藤に比べると柴崎のプレーにはまだ粗が目立つ。今後はそうした部分を改善していくことが求められる 【写真:ロイター/アフロ】

 それを踏まえると、テンポの良いプレーで遠藤に欠ける能力を見せた柴崎だが、たとえば後半アディショナルタイムのトラップミスでカウンターのピンチを招いた場面、あるいは0−4で敗れた昨年10月のブラジル戦でカウンターを食らったミスに見られるように、ミスの少なさ、プレーの安定性は、明らかに経験豊富な遠藤に劣っている。

 実際にピンチになっていないシーンでも、たとえばUAE戦の後半35分には、ワンタッチでセンターバックへバックパスを出せば、難なく切り抜けられる場面でも、無理に打開しようとして相手のチェイシングを食らい、ボールを失いかけた。自陣というプレーエリアを考えてもリスクが大きい、決して褒めることができない判断だった。

 こうしたプレーの粗(あら)を、柴崎は少しずつ改善する必要がある。彼自身は、一歩一歩、確実に進んでいくタイプのようだ。

「僕個人のスタイルというか、ライフスタイルもそうですし、考え方として、飛び級をすることはあり得ないです。一歩一歩、段階を踏んでやるのが僕のスタイル。そういった意味では、この場所に来たことも、成長できた証の一つだと思います。さらに伸ばしていきたいところはありますけれど、結果が出ないときでも、そこだけを見るのではなくて、自分がどう成長しているのかというのを客観的に見ながら、プレーする必要があります。そういった意味では、少しずつですけれど、前に進んでいると思います」(UAE戦後の柴崎のコメント)

 先輩のプレーメーカーから、後輩が学ぶことは大きいはず。80年生まれの遠藤と、92年生まれの柴崎。同じ申(さる)年の2人から、今後も目が離せない。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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