遠藤から柴崎へ、予感させた新時代の到来 両者が備える能力の違いとは何なのか?

清水英斗

遠藤の支配力が発揮される展開とは

遠藤(7番)から柴崎(20番)への交代は新たな時代の到来を予感させた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 もしかすると、2015年のAFCアジアカップは、柴崎岳というフットボーラーを世界にお披露目する機会になっていたのかもしれない。11年にカタールで行われた前回大会では、長友佑都がピッチをかけ回って存在感をアピールし、現在のインテルに至るステップを歩み始めた。今回は日本が優勝できなかったことも残念だが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、あと2試合、この舞台で柴崎を見たかった。そんな思いが去来する。

 23日に行われた準々決勝のUAE戦、後半9分。遠藤保仁に代わり、ピッチに足を踏み入れた柴崎。それは新時代の到来を感じさせるシーンでもあった。

 遠藤はグループリーグ3戦目のヨルダン戦で、こんなことを語っている。

「向こうは勝つしかないですし、僕らは先に1点取って、精神的にも余裕があったのは大きかったです。まあ、行ったり来たりの展開になると、どうしても自分たちの良さは出づらいので。その辺はボールをしっかり回しながら、リスクを抑えるというか、自分たちでコントロールしなければいけないですし」

 ボールを回しながら、リスクを抑えてコントロールする。たとえば0−0から先制ゴールを挙げ、そのまま逃げ切りを図るような展開だ。そんなとき、遠藤のゲーム支配力は、ため息が出るほどのクオリティーを発揮する。

チームを活性化させた柴崎

 ところが、UAE戦で日本を待っていたのは、グループリーグとは違う展開だった。早い時間帯に先制ゴールを許し、それを追いかける立場となる。しかも、UAEは巧みに日本のディフェンスを間延びさせた。たとえばゴールキックでは、GKからディフェンスラインへパスを渡しておき、日本のプレッシングをおびき寄せてから、ロングボールを蹴り込む。UAEは日本の前線と最終ラインを切り離し、スペースを広げた上で、2トップやサイドハーフのスピードを生かした。

 遠藤が「行ったり来たりの展開になると、どうしても自分たちの良さは出づらいというのがある」と危惧していたが、まさにそれに合致する展開だった。攻めなければならない。そして、カウンターにも対処しなければならない。日本が徐々にゲーム支配を取り戻すものの、スコアを含めた試合状況は、上下動のスピードを否応なく求めてくる。

 象徴的なシーンは、前半の終了間際に見られた。攻撃が失敗に終わり、相手のゴールキックになったとき、深い位置へ飛び出したあとの遠藤の戻りが鈍い。ピッチサイドのハビエル・アギーレ監督は、声を荒らげることはなかったが、しきりに遠藤を見ながら、手のジェスチャーで「戻れ、戻れ!」と繰り返した。

 そして、ハーフタイムを経て、後半9分に投入された柴崎。しばしば遠藤の後継者と語られる鹿島アントラーズの至宝は、先輩にはないスピードと敏しょう性でテンポを上げ、チームを活性化させた。疲れが見えるUAEに対し、柴崎のダイナミズムが面白いほど効く。そして、本田圭佑のポストプレーからリターンパスを鋭く蹴り込み、同点ゴールをゲット。延長戦には、スタジアムがどよめくフリーキックも見舞った。

 遠藤のようなキック精度を誇りながら、香川のようなテンポ感も備えるプレーメーカー。柴崎は攻撃に関して、ちょうど2人のスタイルの中間的な選手と言えるのではないだろうか。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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