現役最高6打者の打撃思考 成功者に学ぶ進化へのアプローチ
球界を代表する打者に成長したオリックス・糸井 【写真=BBM】
「勝負弱さ」を克服した糸井
まさに“超人”の名にふさわしい活躍ぶりだった。右脇腹痛、両膝痛を抱え、いつ離脱してもおかしくない中で、チームの中心選手としてバットを振り続けた。決して万全の体調ではない中でも自己最高の成績を残せたことに本人は「何でやろ? たまたま。いい緊張感の中で試合ができたからかな」と煙に巻く。だが、日本ハム時代から糸井を指導してきた福良淳一ヘッドコーチの見方は違った。
「ケガをしていてもこれぐらいの数字は残すと思っていた。周りはケガをして何であんな数字が残せるの? と驚くけどね」
福良コーチは07年に日本ハムの2軍監督を務め、08年からは1軍ヘッドコーチに就任。打者・糸井が1軍の中心選手になるまで見てきた人物だ。
その福良ヘッドコーチが注目したのは得点圏打率。過去3年は3割未満だったが昨季は3割4分と大幅にアップした。
「もともと、積極的に打っていくタイプだが、去年はこれまで以上に仕掛けが早かった。得点圏の打席で迷いがなかった分、数字に出た」
唯一の欠点だった「勝負弱さ」を克服したことでより安定した数字を残せるようになった。
驚異的な身体能力と努力の相乗効果
「すごいのは誰よりも練習すること。身体能力より練習をする才能があったからここまで来られた。今でも誰よりも練習する」
打者転向1年目。寮生は通常の練習を終えると夜8時から各自で行う夜間練習があった。糸井は結婚して退寮していたが毎日、福良コーチの下を訪れバットを振り続けた。夜遅くまで延々とバットを振る糸井の姿を見て、「頼むから帰ってくれ。俺が帰れない」と話したこともあったという。
糸井の特長はバットを振る際の腕の使い方とスピード。ガッチリした下半身を軸に、ボールを懐ギリギリまで呼び込む。強引にバットを振るのではなく、ムチのようにしならせ最短距離でボールに力を伝える。打席の中では「来た球を打つタイプ」で、初めて見る投手の球にも初球から積極的に振っていく。タイミングを崩されても、柔軟に腕を使いボールを確実にとらえる。福良コーチも「スイングスピードはイチロー並に早い。腕の使い方も似ている」と、かつての同僚を引き合いに出し説明した。
驚異的な身体能力を持った努力の天才。進化し続ける男が目指すのは過去8人しか達成していない3割30本塁打30盗塁のトリプルスリー。この男なら不可能ではない。