楽天ドラ1安楽智大を変えた肉体改造 愛媛と東北の思いを背負い開幕ローテへ

寺下友徳

開幕ローテへ順調な始動

「スパーン!」

 2015年1月5日、松山市郊外にある済美球技場の屋外ブルペン。東北楽天のドラフト1位ルーキー・安楽智大の投じたストレートは冬晴れの空気を切り裂き、2年半、共に戦った練習パートナー・中島義貫(3年)が中腰で構えるグラブをはじきあげる軌道を描く。

 2年夏の愛媛大会準決勝で最速157キロをマークした時と同じく、しっかりと全体重を左脚に乗せて投げ切る安楽。その表情には、2年秋の愛媛大会で発症した「右腕尺骨神経まひ」がようやく回復傾向に転じ、本格的キャッチボールを始めた366日前に同じ場所で垣間見えたおびえは一切ない。

「今年も1月1日からずっと体は動かしてきました。昨日も100球近く立ち投げをしたんですけど、だいぶ指のかかりもよくなってきました。まだ力は10割ではないですけど、ボールの勢いも上がってきたと思います。新人合同自主トレ中は感覚をつかみながら立ち投げでしっかりと作って、2月1日からのキャンプインでは監督さんから『(捕手を座らせて)行け』と言われたら、投げられるように気持ちを準備したいです」

 こうして「開幕ローテーション入り」という大きな目標へ向かって順調な歩みを進めている安楽。その源には愛媛大会3回戦敗退に終わった昨年7月以降、いっそうストイックに取り組んできた「肉体改造」がある。

1年以上取り組んだ「肉体改造」の成果

 実は彼にとって、この「肉体改造」は1年以上取り組んでいるテーマである。きっかけは本格的な投球ができずにいた2年冬。安楽は「(故・上甲正典)監督さんを甲子園で胴上げする」という済美入学時の約束を果たすべく「苦しい、嫌なことを自分からやる」とメンタル向上の狙いを掲げる。そこで、ボート男子で五輪5大会連続出場の武田大作ら世界的選手を指導した実績を持ち、野球部の外部トレーニングコーチを務める吉見一弘氏による指導の下、さまざまなトレーニングに挑戦していった。

 具体的には短距離ダッシュから長距離走までさまざまな種類のランニングメニューに加え、下半身を中心とした週4回のウエイトトレーニングや、これまでほとんど行っていなかった体幹トレーニング、インナーマッスル強化、さらに四足歩行などのクリーチャートレーニングなど。これにより2年秋に63センチだった太ももは68センチになり、下半身も安定。課題だったバランスのばらつきも改善された。私生活では「太ももとお尻が大きくなったのでジーパンが入らなくなった(笑)」と思わぬ悩みも生まれたが、これらの冬トレーニングは入学時、一般人にも劣る筋力だった彼の身体をプロ仕様に近づける貴重な時間となったのだ。

 無念の思いを抱え野球部を引退した後も、安楽智大の成長は止まらなかった。「20年プロで活躍できる選手になる」次の目標へ向け、彼はさらなるチャレンジへ踏み出す。3年夏までは右ひじの状態を整えることを優先させるべく、手を付けられずにいた上半身トレーニングに目を向ける。

 週3回、3時間のジム通いで下半身トレーニングなどは継続しつつ、15種類の上半身トレーニングを導入。ここでは「内旋・外旋を入れるなど、緩める運動をしてから筋肉を入れる」(吉見氏)ことにより、彼のスピードボールを生み出す最大の原動力である肩ひじの柔軟性維持にも留意した。

 ドラフト会議12日前の昨年10月11日に報道陣に公開された立ち投げでも、片りんは見えていた。その時を含め、彼が退部届を出す12月中旬まで常にブルペンでの女房役を務めていた大西勇気(2年)いわく「テークバックが小さく、前を大きくするようにして投げていることで、ボールの質が違っていた」。ストレートは凄まじい回転数で大西のミットに突き刺さっていた。

 それからさらに約3カ月が経過した現在、「体重は(昨年夏から)3キロ増の90キロですけど、体脂肪率は3%減の12%です」と申告した安楽の成長を、吉見トレーナーが裏付ける。

「握力は15キロ増えて65キロ。腕の筋肉量も1.5倍になりました」

 ちなみに日本人最速162キロ右腕・大谷翔平が13年の北海道日本ハム入団時に出した握力は「70キロ」。単純に比較はできないが、安楽がこの時点でプロでも通用する筋力を備えつつあることは間違いないだろう。

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著者プロフィール

1971年、福井県生まれの東京都東村山市育ち。國學院久我山高→亜細亜大と進学した学生時代は「応援道」に没頭し、就職後は種々雑多な職歴を経験。2004年からは本格的に執筆活動を開始し、07年2月からは関東から愛媛県松山市に居を移し四国のスポーツを追及する。高校野球関連では「野球太郎」、「ホームラン」を中心に寄稿。

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