駒大、7年ぶり箱根Vへの2つの条件 優勝大本命もわずかに残る不安要素

石井安里

勝利の条件は“3区までにリード”と“山”

前回5区を快走した馬場。今大会でも気負うことなく地力を出し切れるか 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 ただ、鉄壁のようにみえる駒澤大にも、わずかながら不安要素が見受けられる。
 まず、層は厚いが、流れを変えられる大黒柱が少ないこと。その点では、窪田忍(現・トヨタ自動車)が抜けた穴は大きいだろう。1区からエースを並べたのは、大八木監督の勝負への強いこだわりだが、東洋大、明治大も前半に強力な選手をエントリーした。駒澤大が3区までに決定的なリードを奪えなかった場合、4区以降で一気に引き離すことができるかというと、そこまでの力はなさそうだ。

 大八木監督は「1区の中村は前回よりも良い」と自信を持っているが、中村はかつての大迫傑(早稲田大、現・日清食品グループ)のように序盤から1人で飛び出すタイプではない。たとえ区間賞を取ったとしても、後続から見えなくなるような差は付けられないだろう。

 となると、3度目の2区に挑む村山だ。ハイペースで飛ばすことを公言しているが、終盤の上り坂を失速せずに走り切れるか。走力からすれば1時間7分台前半、絶好調なら史上5人目の1時間6分台も狙えるだけに、実力をしっかり出し切ることがポイントになる。2区を終えた段階で、トップに立つだけでなく、1分近いリードを奪って3区につなげば、4区以降も勢いづくだろう。

 もう1点、怖いのは気負いだ。全日本大学駅伝の4連覇で、勝ち方を知る選手は多いが、箱根駅伝の優勝を知る選手はいない。独特の雰囲気を持つ舞台に、優勝候補の大本命として臨むにあたり、「勝たなくてはいけない」プレッシャーとどう向き合っていくか。

 特に、山の2区間が重要だ。5区の馬場、6区の西澤は、ともに区間賞を目標にしており、順当なら1時間19分台前半、58分台を狙える。だた、山の場合、前年の経験自体はプラスになるものの、タイムもプラスになるかというと、必ずしもそうではないのだ。 馬場は前回、トップの東洋大と21秒差の2位、目標とする選手が見える好位置でタスキを受けた。今季は走力がついたことは間違いないが、単独走で山を上るときに前回以上の走りができるか。また、6区は駒澤大に限らず、前年に良かった選手が気負って前半から飛ばし、終盤にペースダウンするケースもある。西澤が落ち着いて自分の走りができるか、注目したい。

ライバル校は往路重視

 優勝を狙うチームは、3区までに駒澤大の大逃げを許さないこと、そして山の2区間をうまく乗り切り、勝機を見出したい。

 有力視されているのは、前回の覇者・東洋大、66年ぶりの頂点を狙う明治大、全日本で過去最高の3位に入った青山学院大、渡辺康幸駅伝監督の最後の采配となる早稲田大の4校だ。
 明治大、青山学院大は、往路を取ることが優勝への絶対条件だろう。早稲田大は1区がウィークポイントだが、山の2区間が強力。6区を終えた時点でトップにいれば面白い。東洋大は、2区の服部勇馬(3年)と山の2区間に自信を持っている。初出場の選手がしっかり走れば、連覇も見えてくる。

 分厚い選手層で、勝ちたい気持ちも例年以上の駒澤大に、走力対走力で対抗するのは簡単ではないが、そこは個人のレースとは違う駅伝。周到な準備と緻密な戦略があれば、駒澤大を崩すことも不可能ではない。
 91回目を迎え、100回大会へのカウントダウンが始まった箱根駅伝。勝負はもちろん、優勝記録、そして総合10時間台のチームが何校出るか注目される。2校が10時間台なら、前回に続いて2度目、3校なら史上初。歴史に残るハイレベル決戦となるか。

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著者プロフィール

静岡県出身。東洋大学社会学部在学中から、陸上競技専門誌に執筆を始める。卒業後8年間、大学勤務の傍ら陸上競技の執筆活動を続けた後、フリーライターに。中学生から社会人まで各世代の選手の取材、記録・データ関係記事を執筆。著書に『魂の走り』(埼玉新聞社)

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